ハッピーアイスクリーム

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのハッピーアイスクリームのレビュー・感想・評価

3.5
20歳のサリンジャーは父親の家業を継ぐことを拒否して大学で文芸を学ぶことにし、講師で文芸誌の編集長でもあるバーネット教授の助言で短編小説を書き始める。大手の出版社との契約を果たしたサリンジャーだったが、やがて第二次世界大戦が勃発し入隊することに。終戦後、苦しみながらも彼は初の長編小説"ライ麦畑でつかまえて"の執筆を始める。

己の声を物語る人

ケネス・サラウェンスキーの著書『サリンジャー 生涯91年の真実』を基に人気絶頂の中、表舞台から忽然と姿を消した伝説の小説家J.D.サリンジャーの名作誕生までの秘話を描いく伝記ドラマ。

世界中で長年にわたり愛され続ける小説『ライ麦畑でつかまえて』。
一応僕も読んだことはあるのですが、実はあまり刺さらなかったんですよね。理由は本作でも出版者の方たちが言うように、主人公ホールデンが"分からない"からです。
しかし、本作を観ると少しホールデンのことが理解できたような気がします。なぜなら、ホールデンはサリンジャー自身だったから。
サリンジャーの半生を描いたこの作品は『ライ麦畑でつかまえて』をより深く味わうためにはとても良い作品だと思います。

特に戦争で負った心の傷が彼を形成する要素として大きかったんだと思う。戦場で死んでいった仲間たち。帰還してからも無理解で無神経な周囲の人々。世間に裏切られ、世の中に背を向けた彼の姿はホールデンそのものだった。

そんな中でもサリンジャーの師でもあるウィットや編集者のドロシーとの交流が良かった。僕自身も一時期はクリエイティブな職を目指していたのですが、創作には才能や努力と同じくらい応援したり支えてくれる人たちが必要です。

世界中の若者を魅了させたが、彼の心は満たされることはなかったのだろうか。

彼の本当の声は彼自身にしか"分からない"。