こなつ

ガザの美容室のこなつのレビュー・感想・評価

ガザの美容室(2015年製作の映画)
4.0
パレスチナ自治区ガザで生まれ育った双子のアラブの監督がメガフォンを取り2018年公開された作品。

2014年7月撮影準備中にイスラエルによる3回目のガザ侵攻が起こり、沢山の犠牲者が出た。しかし、この作品はパレスチナとイスラエルの政治的紛争を扱っているのではなく、ガザに生きるごく普通の人々、女性達の暮らしが描かれていた。

ガザ地区で美容室を経営しているクリスティンはロシア人。ロシアに留学していたパレスチナ人の男性と結婚してガザに移り住んでいた。その美容室に訪れた女性達は、離婚調停中の女性、結婚を控えた若い娘、その娘に付き添ってきた母親と義母と義妹、出産間近の妊婦や信心深いイスラム教徒の女性など様々である。戦火の中、決して豊かではない閉塞状況にある地域ガザで生きる普通の女性達13人の会話が、美容室という狭い空間の中で飛び交う。

頭上で音がすると、「イスラエルのドローンよ」と誰かが平然と言う。美容室の外ではライオンを連れて人々を威嚇するマフィアの姿。そして突然始まる銃撃戦。ハマスとマフィアの激しい武力抗争が始まり、女性達は外に出られなくなってしまう。

ヨルダン川西岸を支配するファタハとガザを支配するハマスの関係性、ガザの中ではハマス支配に縛られ、一方マフィアによる麻薬の蔓延や暴力の横行、女性達の話から垣間見える彼女達の悲惨な生活と葛藤。そんな彼女達も他の地域の女性達と同じように恋もするし、綺麗になりたいし、幸せを感じたり辛いことを経験しながら日々の生活の中で自分の意見も持っている。

銃撃戦で取り残された美容室の中で動揺する彼女達に諍いが始まるが、「これでは外の男達と同じだ」と叫ぶ美容師。大義を唱えて戦う男達の後ろで、家族を支え耐えてきた女性の心からの叫びに聞こえた。

この時期だからこそ、遠いガザに思いを馳せて胸が締め付けられた。
こなつ

こなつ