いめーじ

哭声 コクソンのいめーじのネタバレレビュー・内容・結末

哭声 コクソン(2016年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

村で連続する怪死事件と怪しい日本人の噂。主人公が田舎町の警察だけあって殺人事件に慣れてない行動や、コミカルでのんびりとした会話が多いけど、だからこそ不気味な雰囲気は際立つし、長さを感じずにテンポよく楽しめる。
死体や娘の変化もおぞましいしイヤ〜な空間が多くて美術的にも素晴らしい。
胡散臭い祈祷師の出番は遅いけど、術師バトルの構図が始まってからはワクワク。儀式のテンションが高めなのも良い。
みんな遠隔攻撃で文化の違いがあるのも興味深いし、どれも禍々しい呪術にしか見えないので、信じる対象が揺らぎまくって作品のテーマも浮かび上がってくる。
「疑え」みたいなキャッチコピーの通り信用できない状況が多発しまくるんだけど、それでも信じることから始める姿勢が大事なんじゃないのかと、隣人を愛せよと切実に訴えてるような気がしなくもない。
疑うことが仕事かつ絶対的な善側と信じて疑わない警察が無力であったり、そんな傲慢さみたいな部分への皮肉も強い。

車で轢かれたのに生きていたし謎の女も異形であることは認めていたし、悪魔と思われても否定せず最後に本性を現した日本人こそが誰よりも分かりやすい「答え」ではあるんだけど、だからなんなんだと言いたくなる底知れぬ悪意には納得なんてできっこない。
不自然なくらい主張しないので、嘘をつくのは人間だけってルールをなんとなく感じる。

謎の女性はキンギョソウやシーンの繋がりからして悪霊を送り込んで家族を殺させていた人物に見えてしまう。手遅れになるほどジョングを足止めしていた行動は解せないし(どこまで本気なのかもよく分からない)、他2人の術師とは敵対関係であることが分かるシーンも明確にあるしで謎。コミュニケーション能力がめちゃくちゃ低いってことなら味方説も納得できる変なバランス。

あれだけ血ゲロ吐かされたのに戻ってきた祈祷師は勇敢に見えちゃうけど、淡々とカメラで撮る姿は冷徹で日本人との繋がりも想像させるし、「餌を飲み込んでしまったか」とニヤケたシーンも誰に向けたセリフかで意味が大きく変わってしまう。
3人の中では1番コミュニケーションを取ってきて普通に振舞っていたし呼ばれたから来たみたいな登場だったから例え悪意があったとしても1番薄い気がする。
撮影が目的の変態祈祷師って可能性もあるんだが、まぁ個人的には3人とも別勢力で祈祷師が最もマシな存在って印象です。マジで印象で語るしかない。

祈祷師は敵の動機を釣りに例えていたけれど、映画自体もミスリードという餌を垂らしまくっているので、こちらもひたすらに食いついては惑わされる。かといって飲み込むのは簡単じゃないし、不快ってわけでもない。

黒人だからギャグ担当かなとか不潔だから殺人鬼かなみたいな映画的先入観でのメタ的推理と同じように、余所者の日本人が1番怪しいだろと思ってしまうし、登場人物も余所者を1番に警戒しているが、実際それが当たっていたとしても観終わる頃には「間違ってなかったけどさぁ…」と素直に喜べない複雑な余韻を残してくれる。イジワルな構成ですよ。
俺は幻覚キノコオチでも好きになれちゃうタイプだけど、この映画は形のある答えを見つけるより翻弄されたままのほうが長く楽しめそうだ。