Inagaquilala

東京喰種 トーキョーグールのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.2
たぶん引退前後の彼女の発言から察するに、清水富美加はこの作品に出演したことが引き金となり芸能界からの引退を決意したのではないかと思われる。人を喰うことでしか生きられない「喰種(グール)」を演じた清水だが、人間の腕を貪るように食べたり、迫真の演技を展開しているが、そのときでも内的葛藤があったのだと思うと、それはそのままこの作品が描こうとしている喰種たちの自らの運命への苦悩にも通ずる。なので、この「引退作品(?)」で見せた清水の演技は強く印象に残る。まことに「引退」は残念だ。

コミック原作の映像化ということで、いかに現実とリンクさせながら、リアリティを担保していくかということが焦点となるのだが、導入部では主人公のカネキの日常を執拗に描写することで、現実のなかに物語を繋ぎとめようとする、その努力は見える。しかし、喰種の臓器を移植され、半喰種にカネキがなったあたりから、現実感は遥か背景へと遠のいていき、バトルシーンへと熱量は注がれていく。

半喰種という自らが置かれた立場に葛藤しながら、人間と喰種に対峙していく主人公の心のうちを描くのが、この作品の趣旨ではないかと思われるが、最後まで登場人物の誰にもうまく感情移入できないまま終わってしまった。それはたぶん作中の視点が分散してしまっていることにある。主人公カネキの一人称視点で押し通せば作品はまた別なものになっていたように思える。視点の曖昧さが、感情移入を阻む原因なのだ。

物語を構築していくには語り手、ドラマを展開させていくには視点、それらが重要になっていくが、本作が初作品となる監督にはまだまだ伸びしろはあるように思える。まったく感情移入できない作品ではあったが、前出の清水富美加、そしてコミカルな味を一切消して、シリアスな新境地に挑んだ大泉洋の演技は特筆されるべきものだ。
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