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浮雲のkaomatsuのレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
4.0
救いようのなさにおいてMAX値の日本映画だ。

敬愛する女優の一人、高峰秀子は、日本が誇る歴史的名女優であると同時に、優れた文筆家でもあった。自伝やエッセイ本を読んで、彼女は相当にドライで厭世主義的な、ヒネクレ者の一面があったんだな、と感じた。数々の栄誉ある映画賞で獲得したトロフィーを、邪魔だからと全部廃品回収に出してしまい、老いてもなお自分のことを「デコちゃん」と呼ぶファンに対して、感謝ではなく「気持ち悪い」と一蹴。ホント、食えないお方だったんだなぁ…と。それを踏まえてこの映画を観ると、彼女の厭世的でニヒルなパーソナリティーが、この『浮雲』のヒロイン・幸田ゆき子のやさぐれキャラに活かされているようで、とても興味深い。高峰秀子のハマリ役と言われるのも、おのずと納得がいく。

森 雅之演じる、色男にしてダメ男・富岡兼吾と、そんなダメ男にハマって抜けられない、ダメンズ好きの幸田ゆき子との、愛と憎しみが表裏一体になった、ドロドロの不倫と逃避行。富岡は、自分の妻の葬式代をゆき子に無心するくらいの、超サイテー男だ。お互いが必要としているくせに、冷たく皮肉な言動しか表せない二人。ある意味、究極にサディスティックな男女の共依存関係を描いた作品ともいえる。ズルズル、ズルズル…どうしようもない男女の腐れ縁と、その成れの果て。戦後間もない時代の荒波に翻弄され、依存し合って生きざるを得なかった二人の境遇や時代背景も考えると、単なるダメンズ+ダメンズ好きの話では済ませられないところが、とても複雑で哀しい。当時はこういう男女、少なくなかったのかも…。

ペシミスティックな情趣よりも、女性の日常を飄々とユーモラスに描くことを得意とする成瀬監督の作品としては、かなり異質な印象。とはいえ、ある出来事が起こる前後にうごめく人々の思惑などを、細かすぎるくらい丁寧に描くわりに、肝心な出来事そのものはバッサバッサと省略する大胆な手法は、やはり成瀬監督ならでは。きわめて日常的な題材にもかかわらず、物語にリズムとイマジネーションを与えている。本来はこういうメロドラマは好んで観ないのだが、二人の関係同様、ついズルズルと最後まで観届けてしまう、実に不思議な吸引力を持った映画だ。
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