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永遠と一日のSのレビュー・感想・評価

永遠と一日(1998年製作の映画)
4.0
2021/09/12 DVD

第51回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品。
死を強く意識した老作家のアレクサンドルが、入院を明日に控え最後に過ごす一日。

愛犬を預けるため娘夫婦の暮らす海辺の家を訪れる。
娘より、妻アンナから自分あての封筒がない手紙を手渡され、その場で読み始める。
やがて妻の声に導かれるように窓辺へ、白のレースのカーテンを潜り、バルコニーに出ると記憶の中の若き妻が背を向けて立っていた…

”言葉‘’は過去の記憶を呼び戻し、記憶の中の愛妻と親族との美しい思い出は海辺と共に在る心象風景の追想録であり、
‘’言葉を買う‘’ことによって、19世紀の詩人ソロモスが時空を跨ぎ現代に蘇る、詩が散文された文芸作品である。

アンゲロプロスの作品においては常に、海の風景でさえ曇りであったのに対し、本作は晴天のギリシャの明るい風景が見られる。
愛娘が誕生したばかりの幸せの絶頂期の記憶は、死が迫る人間にとって、これほどまでに輝くものなのだろうか。愛に満ちた記憶は色褪せることのない、眩い輝きと永遠の儚さを纏う。
白の洋服を着た希望に溢れる家族や親族たちとは対象的に、暗色のアレクサンドルには、振り返ることしか出来ない。
奇しくも、執筆に没頭して家族を省みなかった過去のアレクサンドルが、アンナの言葉によって明らかとなる…。

また、車の窓拭きをして日銭稼ぎをしている一人の難民少年との出会いによって、過酷なギリシャ社会を描いたロードムービーとも成立しているという多重構造。
想像を超えたイマジネーションで、言葉を巡る過去、現在、未来、愛を描いた比類なき美しい物語である。
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