自主制作映画って概念がぶっ飛んでしまう映画だった。
冒頭からしてすでに自主制作らしさが微塵もない。
大作志向の骨太なストーリーに、堂々とした画作りに演出、演技。
相当にお金がかかってるんだろうなあ、と思わせられるスケールの大きさ。
何もかもが規格外、という感じだ。
ストーリーは、恋人の死を追う記者が、遺族と暮らす容疑者を疑っていくというもの。
恋人の死の真相と、なぜ容疑者が遺族と暮らしているのか、という点がミステリーとして惹きつける。
田舎ならではの閉塞感もしっかり描かれていて、それが謎を余計に難しくしていく。
これだけでも見応え十分だし面白い。
でも、そこに留まらない。
恋人の死の真相が見えてくるとともに、徐々に現実が狂気を孕んでいく。
なんでもないシーンがやけに恐ろしく感じられる。
何が現実に起こっていることなのかがわからなくなってくる。
そこまで、社会派ミステリーとして観ていただけに、そのショックは大きい。
でも、幻滅したとか、的外れになった、というよりも、映画が違う側面に進んでいったという感覚になる。
そして「恋人の死の真相」という謎だけはまったくぶれないので、気を削がれることもない。
いろんな人が疑わしく思えてきて、それが次々に裏切られていく。
現実だか虚構だか判断が付かない状況のなか、少しずつ真相が見えてくる。
このワクワク感、爽快感が、たまらない。
盛り上げ方も、落としどころも文句がない。
事件のシーンの本当の意味がわかった時には、背筋が心底ゾッとなった。
ああ、そういうことだったのか、と。
すごかった。
こんなにも堂々と大作路線を突っ走り、それを実現しきっている実力に驚く。
監督の松本千晶には、現実の大作を撮ってほしいと強く思った。
というか、いますぐにでも撮ったほうがいい。
目端の利くプロデューサーは、すぐに食いつけ。
にしても、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)というか、自主制作映画は面白い。
思いきり実験的なものだったり、この作品のように大作志向のものだったり、監督の感性のみが凝縮して詰め込まれているものだったり、センスだけで一級品になっているものだったり、アイデア勝負のものだったり。
とにかく、いろんなタイプの映画が自主制作映画にはある。
玉石混淆だとしても、そこから自分だけのお宝映画を見つけだす喜びは何にも替えがたい。
うん、自主制作映画、好きだ。