サンヨンイチ

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのサンヨンイチのレビュー・感想・評価

3.7
心臓外科医のスティーブンは
ある青年との親子のような関係を築きながら密会を重ねている。
理由は青年に対して負い目があるから。
好青年である彼を家族の待つ家へ招き入れたが、そこから突如家族に謎の不幸が襲いかかる。
青年が家族にもたらしたのは何か。
そして堕ちていく家族のそれぞれが選ぶ選択は。

バリーコーガン恐ろしや。
「ファニーゲーム」ばりの異常者特有の無表情。
前述作品がリアルな理不尽を追求した作品であるのに対し、
この作品は現実世界でフィクションを認めてしまっている、非現実的さが仕掛けとなっています。
この家族に起こっている摩訶不思議な呪い。
そもそも、なぜ青年はこの家族と関わりを持ち、まとわりつくのか。
なかなか真相が見えないが、あどけなさも残る好青年から
少しずつ大胆さが露呈していき、
恩着せがましく、自己中心的な男へと変貌していきます。
バリーコーガンといえば表情が豊かではないイメージですが、
ポーカーフェイスなのに前後で表情の見え方が全く異なっていて故の怖さを全身で感じてしまいます。音楽の奇っ怪具合も含めて鳥肌が終始ザワザワしてしまいます。

確かにドクターの男を恨む気持ちは分からないでもないですが、
家族に対する非道ぶりは不快感MAXです。

しかし、そこで終わらず家族の心情をも変化していくところが面白い。
呪いを本物と実感して以降、
スティーブンにも青年にも媚びを売り始める家族たち。
命の品定めをしてしまうスティーブン。
最後の最後にはあの映画のオマージュとも言える、
あまりに滑稽で惨めな選択が待っています。


ネチネチとなじるような不穏さと不快さが纏わりつく、気色の悪い作品でありながら
変なお洒落さもある
素晴らしい作品です。