道人

マンハントの道人のレビュー・感想・評価

マンハント(2018年製作の映画)
2.8
 原作小説未読、高倉健主演の映画も未見。

 中年になっても美形な福山雅治さん、どうしても堅気に見えない竹中直人さん(あれだけ矢島を買って庇うのは伊藤課長が彼の中に若い頃の自分を見ているんだろうなぁ、と伝わるキャスティングではある)、バーサーク状態でのアクションに鬼気迫るものがある倉田保昭さん、微笑みのマッドサイエンティストぶりがはまる矢島健一さん。そして「こいつらに関わったら危険」と本能が告げる國村隼さん、理系ジャイアン池内博之さんの「親子」、と「顔面力」強めの日本俳優陣が多数出演。
 女優では桜庭ななみさん、涙が綺麗(被害者の立場になって推理するときシンクロしすぎて半狂乱になるシーンの泣き顔が印象的)。TAOさんも出てくるんだけど、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に引き続きかわいそうな末路ですが、セクシーな形の良いお尻が見られます。

 オリジナルに敬意を払っているシーンが多数あるらしいのですが、私は知らないせいか、どうにもストーリー面にはちぐはぐ感が。あと、どうしても俳優さんの吹き替えのリップシンクがうまくいってなくて気になってしまいます。日本語・中国語・英語が入り乱れる物語なので仕方ないのか…。

 ただジョン・ウー監督の手にかかるとまだこれだけ日本企業が「悪」としてギラギラと描いてもらえるんだなぁ、とちょっと嬉しくもあり。世界進出して「スゴイタカイビル」建ててそうなどす黒いギラギラ感。池内博之のドラ息子感が炸裂する変な踊りの群舞シーン、あべのハルカスでのロケなんですね。退廃的なシーンに紋付で國村隼が入ってくると空気が引き締まるのは、國村さん、流石の存在感。

 演歌をバックに漁港が映る導入からローカル駅でのラスト(廃線でもないのになぜか線路を歩いてクールに去る福山雅治。危ないぞ)まで昭和オーラというか「演歌の花道」感も濃厚ですが、ウー監督が「好きだった日本映画」を自作に取り込もうという姿勢は微笑ましくもあり。
 私の大好物「外国人監督が撮る日本」のキッチュさ、ストレンジな感じは同じ東アジアの監督ゆえに薄めですが、逃亡中のドゥ・チウが乾いた喉を潤すのが公園の水場などではなく、シンとした夜のお寺の手水舎で、その後自然と本殿に足を向けて首を垂れ手をあわせるシーンはなんだかいいなぁ、と思いました。あと、桜の下、美しい花嫁のウェディングドレスの純白のスカートが婚約者の流す血で染まるシーン、スカートに血が滲みていく速さが絶妙でハッとしました。

 アクションシーンの白眉は牧場(ペンション)での襲撃者たちとの戦いのシーンですかね。
 猟銃から真剣まで武器庫かな?と思えるくらい武器が豊富な一般家屋で、黒スーツバイク軍団(やっぱり日本で襲撃者と言ったら黒スーツバイク軍団だよね!)との激闘。予告編でも印象的な、手錠で繋がれた二人の「初めての共同作業」的なリロード、ケーキ入刀の代わりにスライディングシンクロ銃撃。そっか、今回の二丁拳銃は「二人で一人」な二丁拳銃なんだ!剣道有段者できっと大阪府警では最強の剣士に違いない矢村警部の日本刀アクションと、ただの弁護士には思えないドゥ・チウの身のこなしが炸裂する!(パンフ見るとエクストリームスポーツ愛好家という裏設定があるそうで。素人とは思えない水上バイクの操縦っぷりと、橋をよじ登る握力・腕力の強さの背景がこれか)
 欲を言えばペンションではなく襖がたくさんあって部屋が細かく区切られているような伝統的日本家屋を舞台にしたウー監督のアクションを見てみたかったけど、オリジナルとなった映画に敬意を払う上で牧場と馬は重要なモチーフらしいから、仕方ないのかな。

 女殺し屋がウー監督作品に登場するのも初めてだそうで。そんな彼女の心を揺るがすのは…「一宿一飯の恩義」ならぬ「一腕掴み」…唐突な感じはするけど、傷ついた人の心を溶かすのは刹那の邂逅でもいい、そんな浪漫。彼女が最後「映画のワンシーンみたい」と呟くのも出来過ぎな感じだけど嫌いじゃない。そんな彼女を「忘れられないラストシーンだよ、一生心に残るヒロインだったよ」くらい言って見送ってあげて欲しかったけど、そうすると気障すぎるかな。
 女殺し屋のシーンでは、「980円」の所がぱかっと開いて狙撃するところ、ちょっと笑ってしまった(笑)。
 レイン対酒井社長の秘書兼護衛女性の格闘もキレがあって格好良かったなぁ。あの秘書もやっぱり酒井社長が孤児院から「救い出して」育てた女性なのかなぁ。彼女の社長への忠誠心は最後まで揺るぎませんでしたね。

 …そんなこんなで物語面ではイマイチ入りこめない作品だったけれど、唐突に出てくる白い鳩がみっちり詰まった鳥小屋に、六尺玉を見て夜空に咲く大輪の花火を連想してにんまりするくらいの心持ちになれる人は、ウー監督の日本愛が詰まったこの一本、ぜひ観てみてください(鳩のシーン、物理的に福山さん(の後頭部)を救うシーンがあって「おお」と思いました)。

 (´-`).。oO(映画本編終了後、ウー監督と福山雅治さんの対談が流れます(「動画パンフ」って言葉初めて聞いた)。ある意味、私にとってはこの映画最高のサプライズが待ってました。あの人、監督の娘さんかよ!「そんなにがっついて」のシーンの無邪気な破顔っぷりが印象的でしたね)

※付け加えておきたいのが、散々「大規模ロケが困難でアクション映画の撮りにくい国」と言われてきた日本で、外国人監督であるウー監督が大阪を中心とした西日本での「全編日本ロケ」を貫いてくれたこと。この映画がきっかけで、日本でもアクション映画が活気付いてくれるといいなぁ、と思います。

【2018.02.11 (2D字幕)】字幕 水野衛子さん

【パンフレット】720円
 日本俳優陣・日本人スタッフのインタビューに重点が置かれたつくり。自分のようにオリジナルとなった映画やジョン・ウー監督作品に詳しくない人間が読むと、様々にシーンに込められた思いがわかる読み物になっています。この映画に関わった日本人たちのウー監督への敬意と愛情がよく伝わってきます。
 「ウー映画においてほぼすべてのセットは木っ端微塵にれる運命」ということを理解して全力で仕事に臨んだ結果、「いいセットだなぁ、今から粉々にしてやるからな」と“破壊のマエストロ”最大級の賛辞をもらうことができた美術監督・種田陽平さんの幸福感溢れるコメントが印象的でした。
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