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あゝ、荒野 前篇のkouのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 前篇(2017年製作の映画)
3.5
《怒りと勢い》
寺山修司の長編小説「あゝ荒野」を岸善幸監督が映画化した作品の前編。主演は菅田将暉とヤン・イクチュン。前編、後編に別れている5時間ほどの長尺の映画でありながら、飽きさせない作り、そして出て来る登場人物達が絡み合いながらストーリーが進行していく。

舞台は2020年の東京オリンピック後、見た目も性格も対照的な新次と健二が同じボクシングジムに通うことになる。彼らにはそれぞれ辛い過去があり、自分自身と向き合いながら、プロボクサーを目指す。

暴力描写、そしてラブシーン然りとても激しく、熱のある映画だ。特に前編は、勢いと怒りと、疾走感のある作品に仕上がっているのではないか。また、新次と健二という対象的な2人が、それぞれの孤独や苦悩を持ちながらも、ボクシングという共通の熱意を持てるものを見つけ、そしてそこで戦っていく、という青春映画的な要素が強かった。

そして、その孤独、というのは決して主人公たち2人の間だけの問題で終わらず、震災や高齢者の増加、自殺者の増加、という日本全体の苦悩と孤独をあわせこんでいる。そこに物語のスケールの大きさ、そしてクライマックスへ続いていく大きな渦の幕開けを描いている。

特に健二には感情移入してしまって、前編で鬱屈した思いを持つ健二が、ボクシングで成長するたび、自分の思いを語る度に涙が出てしまった。二時間位があっという間に終わる、そして後編が気になる持続力のある作品だと思う。
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