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ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズのatsukiのレビュー・感想・評価

3.7
【攻撃は最大の防御な笑い話】

「クソッ」

そんな言葉で始まる今作。セックススキャンダルでアメリカ社会を騒然とさせた若手政治家アンソニー・ウィーナーを追ったドキュメンタリーである映画を試写会でいち早く鑑賞させてもらいました。

連邦下院議員アンソニー・ウィーナーは、ハンサムなルックスと明快なトークスキルで支持を集め、7期連続当選。ところがある日、ウィーナーは自身のブリーフ1枚の下半身写真を、誤ってツイッターに投稿してしまう。この投稿により、女性と性的なメッセージや画像を送りあう「セクスティング」という性癖を隠し持っていたことが全米に知れ渡り、ウィーナーは議員を辞職するハメに…そこから再起をかけたNY市長選挙に密着取材を敢行し、そこで起こった「まさかの展開」を追うと共に、驚きの戦略と騙し合いに満ちた選挙戦の裏側を映し出していく。

面白いのはこの映画の終盤では去年末から今年の始めにかけて行われたアメリカ大統領選挙前まで時系列が進む事。ポスターには「この男がヤらかしてなければ、トランプ大統領は無かった!?」という言葉がある。というのもウィーナーの奥さんであるフーマがヒラリークリントンの右腕と言われるほどの存在である。この映画においてフーマの立場は重要で夫は人気と実力はあったがスキャンダルで再起をかけた選挙を行っていて、一方でヒラリーは大統領選挙が控えている。引っ張り合われる様な状況にいるフーマの辛さがひしひしと伝わってくる。またヒラリー自身もスキャンダルで人気が低迷した事などどこまでも皮肉に感じる。

何が言いたいかと言えば、我々が間近に感じた時代の裏側をこの映画で体験出来るのだ。それにウィーナーのスキャンダル発覚の原因となったSNS。インターネット社会の現代でスキャンダルというものはおおっ広げになってしまうものだ。舛○都知事やら野○村議員やら他にも様々な政治家のスキャンダルは日本にもある。もちろん彼等のやってるグレーないけない事を肯定するつもりはないが、そのスキャンダルという炎上に我々世論は油を注ぎに注いでいる。いけない事をいけないと言うのは正しい事だ。自分が言いたいのは叩いてるだけで、彼等の政治的な判断材料はスキャンダルがあるか、ないか。たとえ世界を変えてしまうほどの力を持とうがスキャンダルがあればその人は政治家としては駄目だと我々は決めつける。

最初に「クソッ」とウィーナーが叫んだのも彼自身実力はあるのにスキャンダルという判断材料で彼は実力がない駄目な政治家だと決めつけられてしまったからだ。ウィーナーが終盤で言う大爆笑な一言が示す様に彼自身が悪い事に変わりはないのだが、何とも理不尽だ。だから彼は自分の長所を生かし、攻撃こそ最大防御と言わんばかりに主張を強め、市長選挙を戦う。

エンドロール前のラストシーンの素晴らし過ぎる「オチ」によりこの映画は笑い話となる。全編笑える面白いところがあるのだが、それは作り物ではなく、実際にそこにあるもの。ラストもそうである様にドキュメンタリーというものが作り物、いわゆるフィクションよりも面白かったりするから恐ろしいものだ。

伝わる現代社会への風刺やドキュメンタリーとは思えない爆笑具合。正に衝撃、いや笑撃と言うべきか…兎にも角にもドキュメンタリー映画の新しい快作ではないだろうか。
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