玄助

密偵の玄助のネタバレレビュー・内容・結末

密偵(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

この映画の設定は朝鮮総督府支配下における当時の体制(大日本帝国)と反体制派(義烈団)の二項対立であるが、その主題は独立に身を捧げる英雄でも悪の支配下に苦しむ被支配民族でもなく、運動家の生き方ではないかと思う。
運動家の真髄は英雄になることでも、打倒権力でも、復讐でもない。その真髄は飽くまで運動の目的を達成することである。

彼らが最も恐れるのはその目標が達成されないことであり、目標達成のためにはいかなる手段をも用い、構成員さらにはそのリーダーの生死さえも重要ではない。

構成員にとっては自身や仲間が志半ばで倒れていく様は辛く、耐えがたいものだが、工作活動の成功の是非が彼ら運動家の死の意味を無駄なのか有意なのかを決定づける。本作においては最後、投獄され恋人をも失い、失意の中にいたウジンが工作活動の成功を知り微笑むことからも「運動」の真髄が見て取れる。あの成功はつまりは投獄された団員全員の運動家としての成功を意味するのだ。

もちろん本作の作者の主題は全く違うかもしれない。だがこの映画を以って「本当の史実を知った」だの「単なる反日映画だ」だの「大日本帝国は日本の恥だ」だのと言うことには違和感を覚える。

その他にも大正ロマンを感じさせながらも中和洋が混ざり合った独特の文化の表現は美しかった。
また本作においては他の韓国映画に比べ、感情面の細かい描写がすこーし不足してて感情移入の面ですこーし置いてけぼりを食らったようにも思うが、あくまでその他の韓国映画における感情移入のしやすさが飛び抜けているだけで決して本作が劣っているわけではない。そして痛みや緊張の描写はやはり圧巻であった。韓国の俳優の層の厚さもすごい。出てくる人出てくる人みーんなに引き込まれた。ソン・ガンホ、コン・ユ、イ・ビョンホン等の有名どころは当然ながら、オム・テグ演じるハシモトの蛇のようにネットリとした不快さはもうほんと引き込まれた。
玄助

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