SANKOU

遠い夜明けのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

遠い夜明け(1987年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

改めて歴史とは勝者のものなのだなと考えさせられた。
アメリカは世界の警察と呼ばれていた時期もあったし、イギリスやフランスなどのヨーロッパの諸国も秩序のある国としてのイメージが強いと思う。
が、アメリカもイギリスもフランスも、かつてはアジアやアフリカを侵略し、植民地化した歴史を持っている。
彼らのおかげで植民地は文明化することが出来たと抗弁する者もいるだろう。
しかしそれは白人たちにとって都合のいい文明化だ。
今の日本人も欧米文化の恩恵を強く受けていることは確かなのだが、植民地化された国の人々にはそれぞれの文化があったのだ。
アパルトヘイトによって黒人がいかに差別され、迫害されたかを描いた作品は多いが、まだアパルトヘイト政策の真っ只中で、これほど生々しい南アフリカの現実を描いた作品は他にないだろう。
実話が基になっており、映画は黒人意識思想の運動家であるスティーヴ・ビコと、白人新聞記者のドナルド・ウッズの交流から始まり、獄中でのビコの死、その死に不審を抱き真実を暴こうとしたウッズの拘束、そしてレソトからイギリスへの亡命までを描いている。
特に黒人の意識を解放しようと活動するビコの言葉のひとつひとつが胸に刺さった。
黒人が劣等感を抱かされるのは、白人の文化を強要されているからだ。
黒人が黒人らしく生きられる世界、自分たちが誇りを持てる世界を作ろうとする彼の望みは正当なもので、暴力に訴えない彼の行為はとても高尚なものである。
むしろここでは自分たちの方が優れていると主張する白人の方が、何事も暴力で押さえつけようとする稚拙な存在だ。
もちろん白人すべてが愚かなわけではない。
愚かなのは黒人を力で縛り付けられると信じている南ア政府と、その権力にあやかろうとする者たちだ。
ビコは白人も黒人と同様に弱い存在なのだと主張する。
力で押さえつけようとするのは、相手が恐ろしいからだ。
差別があるのは人間が劣等感を抱く生き物だからだ。
だから南ア政府は自分たちが優れていることを力で押さえつけることで示し、自分たちの体面を保とうとしているのだろう。
しかし保安警察の人間が腹いせに黒人居住区を襲ったり、嫌がらせのためにウッズ家に毒物を縫ったシャツを送りつけたりする場面があるように、なりふり構わない南ア政府の恐ろしさを嫌というほど思い知らされた。
後半は亡命するために監視の目をすり抜けようとするドナルドの姿にハラハラさせられる展開だ。
実際のドナルド自身がこの映画の製作に携わっているように、当時の南アのアパルトヘイトに対する強い抗議と怒りが画面から伝わってきた。
エンドクレジットの獄中で亡くなった活動家の数の多さと、その死因の不自然さにも恐怖を感じた。
そして無抵抗な学生たちに容赦なく銃弾を浴びせる南アの軍隊の卑劣さ。
心が重くなる内容だが、どれだけ虐げられても「アマンドラ!」と声を上げ、悲しい時も辛い時も陽気な声で歌い上げるアフリカの黒人の強さに心を打たれた。
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