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否定と肯定のpikaのレビュー・感想・評価

否定と肯定(2016年製作の映画)
3.5
扱われているテーマに対して思ったよりも大雑把な映画だった。実話を元にした映画なので裁判の判決を知った状態で見ることも考慮されていて判決に対してカタルシスを置いておらず裁判期間の舞台裏に主軸をあてた弁護団のチーム映画。
前半はスピーディでテンポが良く、学者と弁護士が意見をぶつけあう会話の応酬が濃厚でワクワクしていたんだが後半は型にハマった展開に若干拍子抜け。
裁判そのものの扱いがチームの交流のためのアクションになっており、反ユダヤ主義とホロコースト否定論者の論述とプロパガンダがその肉付けといった具合に収まっている。

アウシュヴィッツへ実際に訪れたシークエンスはめちゃくちゃ良かった。トム・ウィルキンソンが「これが俺のやり方だ」と現場へ足を踏み入れる必要性と観客が本物の映像を見ることがリンクしていて上手い。ウィルキンソンの物静かな闘志が胸をすくようなカッコよさ。
観客にはウィルキンソンの意図が映像で提示されるし弁護団の熱心な姿勢が描かれるので、後々「誤解していた」と和解する流れを見せるためとは言え突然激高したり頑なに自分の意思を貫こうとするレイチェル・ワイズの言動に違和感を感じてしまう。
徹頭徹尾ウィルキンソンを筆頭とした弁護団が魅力的に描かれているのに対し、ワイズ演じる主人公が書いた著作が原作なのに最初から最後まで全く主人公に共感ができないところが謎。激情家に見せるためなのか学者のわりに知性が感じられなかったり、なんで主人公は理解できないの!?と思ってしまうようなシーンがあったり、演出意図がわけわからん。様々なシーンが裁判期間中の表向きの態度に対する言い訳めいた印象を受けるし、どこまで原作通りなのかはわからないけどテーマそのものが表面的にしか見えないせいか何をもってこの映画を作ったのかがイマイチ見えづらい。実話にしてはフィクション感の強い演出がそうさせているのだろうか。勘ぐり過ぎて短絡的なアメリカ人に対してイギリス人は思慮深いのよオホホ映画に見えてしまう。違うだろうけど。

アンドリュー・スコットがスーパーカッコよかった。自分で説明せず部下に説明させ横で「そうだ」「その通り」「続けて」って合いの手入れてるシーンがむちゃくちゃ最高。目を合わせず節目がちに話す仕草がめちゃセクシー。
生存者を証言台に立たせたい主人公に対して頑なに反対するところで冷静に説得しているのに何度も請われて感情が抑えきれなくなる一連の流れも素晴らしい。メガネ✕スーツ最高。スコットの登場シーンだけ何度も見たいから録画削除できませんな。
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