螢

君の名前で僕を呼んでの螢のレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
3.8
なんて繊細で儚い、余韻に満ちた作品。
昨日の鑑賞終了から、未だにラストの無情さと切なさと、そして、儚い美しさを噛みしめている最中です。

盛夏の北イタリアのとある村。家族で避暑を楽しむ17歳の少年エリオのもとに、美術史家の父が招いた24歳のアメリカ人青年オリヴァーが、六週間の滞在予定でやってくる。
如才がなく、人タラシでもあるオリヴァーは、すぐに家族にも村にも溶け込んでしまう。そして、いつの間にか、エリオをも魅了する。

好きになるきっかけらしいきっかけもないまま、それでも二人は惹かれ合い、恋に落ちて、わずかな時間を共有します。でもそれは、当事者の二人にとっても、周囲の人々にとっても、初めから終わりがくることはわかっていて…。

敢えて劇的な展開もきっかけもない、淡々としたつくりながら、それゆえに却って、若い感性の敏感さ、不可思議さ、その儚さや貴重さ、恋に溺れる高揚感と喪失の痛みといった、とても感覚的であるとともに、刹那的な美しさを持つ様々なものが、盛夏のイタリアの田舎町の美しい風景と相まって描かれ、際立っています。
そして、息子の若い感性と経験を尊重して、見守った両親の懐の深さと愛情の描き方がこれまた素敵。

脚本は「日の名残り」(1993)のジェームズ・アイヴォリー監督とのこと。
「日の名残り」では、過去を昇華する老人を情感豊かに描いていたのに、この作品では、対極にある、未来に踏み出す少年の刹那的なきらめきと傷心を情感豊かに描ききっています。

(監督と脚本とでは少し役割は違うでしょうが、)この人、本当に、微細な空気感というか人生の機微を形にするのに長けた人なんだなあ…としみじみと感心してしまう。

感覚的なものを、さらりとまとめあげて情感豊かに美しく表現する手腕では右に出る者がいなさそう。

それにしても、ラストシーンの、静かな泣き顔がまだ胸に残ってる…。あんな終わり方にしちゃうとは…そりゃあ、「生涯忘れられない恋」になってしまうよ…。

若者を描いているためか、性的に生々しい描写も数多かったので、正直、おおっぴらには人に勧めづらいのですが、それでも、感覚の捉え方と表現が見事なので、観て損はない作品だと思います。
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