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母が教えてくれたことのatsukiのレビュー・感想・評価

母が教えてくれたこと(2016年製作の映画)
3.6
【壊れた家族の再生】

あのSNLの脚本家が制作した映画で、恋人と別れ、仕事もイマイチなNY在住のコメディライターが、余命わずかな母親のため故郷へ帰る。家族の前では平静を装ってはいるものの、内心はボロボロでいた。珍しい癌に犯されていき、日に日に弱々しくなっていく母。仕事もなく、以前ゲイをカミングアウトし、様々な関係がこじれ孤独を感じている主人公のデヴィッド。母は肉体的に弱っていき、デヴィッドは精神的に弱っていく。

家族内に生まれるやるせない気持ちと何とも言えない不穏な空気が、たとえ血の繋がった家族をも「他人(other people)」にしてしまうのだ。そんな中で描かれる登場人物の「夢」と「現実」。夢とは登場人物達が何かに集中する事で今ある現実を忘れようとするもの。どうしようもない状況の中で心が安らぐ瞬間とそこから現実に引き戻される対比が上手い。また母が元気な頃と弱った頃を同じ状況、同じ景色で見せられるから胸が痛くなる。最初と最後で同じシーンを見せられる円環構造なのだが、そこで起きるある出来事が人生の皮肉にも感じる。ラストは他人になってしまった家族がプロセスを経て家族へと復帰する名シーンではないだろうか…

やはりSNLの脚本の為笑えるシーンも多く、温かい明度で見せられる画面から伝わるアットホーム感がとても見ていて気持ちがいい。でもしっかり胸を締め付けるラストも待っている良作であった。
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