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ムーンライトのkouのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.5
《秘めた思い》
とても美しく、「光」について描いた映画だった。アカデミー賞を受賞した今作はとても静かながらもエモーショナルで、美しく輝く景色と主人公の人生を描いた傑作だった。監督はバリー・ジェンキンズ。主人公のシャロンを3人の俳優が演じる。

映画が始まって息を呑むのはその映像の美しさだ。只の住宅街のシーンなのだが、画面全体の光量が多く、輝いて見える。それは今作のすべてのシーンで言える。どのシーンを振り替えてみてもとても印象的で美しいのだ。その美しい描写に対比して、シャロンの人生はとても過酷だ。シャイな性格からいじめられ、自分の居場所がない。彼は少年からティーン・エイジャーになり、それでも周りからの攻撃に傷つき続ける。

今作はLGBTについて描いている。しかしLGBTの人にかぎらず、見ている者の心に刺さるのは、自分の心の中に秘める本当の思いというものについて描いているからだろう。誰もが誰にも打ち明けられず、苦しんでいる心。隠しているその思いについて描いているのだ。今作を観て僕が思ったのは、その心のなかに秘める思いこそ、それこそがその人の本当のパーソナリティなのではないかということだ。そう考えると劇中の「他人に人生を決めさせるな」という言葉がより心に残る。自分の人格を、自分の思いを誰かに左右させない。とても感動的な内容だと思う。

その秘めた思いは映画のシーンのように輝いている。シャロンは大人になり、かつて自分を導いてくれたフアンと同じ仕事をしているが、内面には少年時代からの思いがある。それを見事に表現するような幻想的なラストシーン。そして彼の純粋な思いに感動した。

今の時代、このタイミングで今作がアカデミー賞をとったということがとても素晴らしいことだと思う。とても静かな作品だが、しっかりと誠実さの伝わる映画だった。感動的な作品で、これからも心に残る作品になった。
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