kumi0314

ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣のkumi0314のネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

生まれた時からバレエを踊るための身体を与えられ
母親により順調にその道に導かれ

誰よりも上手くなるために
誰よりも高く飛ぶために
誰よりも美しく舞うために

夢中で努力を重ねた幼少期

そしてその才能は当然のように認められ
瞬く間にトップまで登り詰めていく

通常であれば多少の葛藤を抱きながらも
バレエに(芸術に)身を捧げることを一生の使命として
人生を全うするのだろうけれど


バレエが好き
踊ることが好き


この気持ちと同様
彼にはもう一つ掛け替えのない
大切なものがあった

それが家族

「周りもみんな同じような環境だから自分だけが特別意識することはなかった」
と語っていたが、幼少期は貧しく

家族は才能の片鱗を見せ始めたバレエをセルゲイにもっと本格的に学ばせるために
父親はポルトガル、祖母はギリシャにバレエスクールの学費を稼ぐために故郷を離れ

セルゲイもまた母と共に生まれ故郷のウクライナからキエフ移住

そしてさらにイギリス、ロイヤルバレエスクールへと居を移して行く

バレエは順調だった
ロイヤルに入ってからはより一層その才は洗練を極め
史上最年少でプリンシパルへと昇格

けれどもう一つの大事な存在である
家族間では大きな変化が訪れていた
セルゲイがロイヤルに入学して2年ほどで両親が離婚する

父や祖母、そして母が自分がバレエを学ぶために犠牲を強いてくれていることは幼いセルゲイにもわかっていた
だから頑張った

セルゲイも自分の戦場で成功を収め
離れ離れになった家族が再び同じ屋根の下で暮らせるよう

稽古場には最後まで残って毎日人一倍レッスンに励んだ
来る日も来る日も稽古と舞台に明け暮れた
いつかその日が来るまで・・・

おそらくその頃のセルゲイは
目の前のことと次の演目のことで頭の中のほとんどが占められ

「バレエが好き」

なんて無邪気に感じる季節はとうに過ぎてしまっていたのだろう

そんな時期に知る両親の離婚

彼がどんなにバレエの神に愛されようと
ヌレエフの再来と称されようと
セルゲイが大きく美しく羽ばたくためには

バレエと家族

この二つの翼が必要だった
そして今その一つはツヤと輝きを無くし
もう人はついに彼の背中からもがれてしまったのだ

*****

この映画は神から選ばれしバレエダンサー
セルゲイが自らの身体をも傷つけ
肉体も精神もバラバラになりながらも
セルゲイが再び在るべき場所へ戻ってくる物語であり
セルゲイが大切にしているもう一つの存在「家族」を
自らの手で再び取り戻す物語でもある

そのために「Take me to the church」は
どうしても必要であったし
だからこそあんなにも痛々しくも美しく哀しみを纏い

初めて家族を招待した際のセルゲイの踊りは
一人の男として逞しく躍動感に溢れ
そして愛に溢れているのだ