MasaichiYaguchi

太陽の塔のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

太陽の塔(2018年製作の映画)
3.5
1970年に「人類の進歩と調和」をテーマに開催された大阪万博のシンボルであり、閉幕後も取り壊されることなく記念公園に偉容を誇っている「太陽の塔」は芸術作品であり、高さ70mの建造物でもある。
制作者である岡本太郎さんは、この巨像にどういう意図を込めたのか?
本作は、今年3月から48年振りに塔内展示も始まった「太陽の塔」の謎と魅力を、この巨大モニュメント事業の関係者だけでなく、様々な分野の学者や専門家、アーティストやクリエイターのインタビューで浮き彫りにしていく。
「太陽の塔」はフィクションにおいても、浦沢直樹さんの漫画「20世紀少年」に登場するアイコンのモデルになっていたり、松岡圭祐さんのミステリー小説「万能鑑定士Qの事件簿Ⅻ」でモチーフとして登場したりと、未だに存在感を発揮している。
制作者の岡本太郎さんは、TVCMで「芸術は爆発だ!」と独特のポーズで言うタレント芸術家のイメージが強いが、本人の実像にも迫ったこのドキュメンタリーを観ると、思想性のあるアーティストだったことが伝わってくる。
その思想性から浮かび上がった衝撃的とも言える「太陽の塔」に纏わる意外な事実。
それは大阪万博のテーマ「人類の進歩と調和」に対する〝アンチテーゼ〟としての「太陽の塔」のコンセプト。
それは同時期に制作され「太陽の塔」と双璧を成し、現在は京王井の頭線渋谷駅とJR渋谷駅を結ぶ連絡通路に恒久設置された巨大壁画「明日への神話」にもよく表れている。
万博のシンボル的存在でありながら異彩を放ち、未だに「何だったんだ、これは‼︎」という念を抱かせる訳が、ドキュメンタリーの進行と共に炙り出されてくる。
この日本人として原初的で普遍的な魅力を持つ巨像は、1970年代とは別の意味で、48年後の閉塞感溢れる社会でも我々に様々な問い掛けをしているような気がする。