Mayumi

名前のMayumiのレビュー・感想・評価

名前(2018年製作の映画)
5.0
映画『名前』は、今まで私が劇場で観た日本映画の中でも衝撃の作品だった。まるで海外の映画を観た時の感情が、私の中にすーっと入ってきた。

たくさんの名前を使って、たくさんの人物を演じている正男。なぜ名前をたくさん使うのか。それは人生を楽しむものではなく、生きることから逃げたいとの思いが強いと感じた。
正男でなくても、生きているとみんな逃げたくなる衝動は誰にでもあるんだ。

そんな正男の前に、突然、明るく強い笑子という少女が現れ、真実を見つめ生きることはいいことではないかと気づき始める。それは、笑子も同じだった。
笑子も正男と同じで、心を閉ざし、演じて生きてきた。

しかし、そんな器用ではない二人の生き方は決しておかしいものではない。
むしろ“ふつう”なんだ。
二人の心の距離を観ていると、なぜだろう。生きることは、苦しいけれど楽しいこともあるじゃないかと、気持ちが高まり、ほっとして涙が出てくる。

「名前」は大切なものだと思う。たとえその「名前」を使い演じているとしても生きていることは確かだ。この映画を観ていると、名前とは?生きるとは?をあらためて考えてしまう。
でも難しく考える必要はないと思う。
正男と笑子を最後まで観ていると、静かに、爽やかに心強く生きていけると思った。二人に勇気をもらった。

誰もが感じる懐かしい風景の中に流れる音楽、そして、音。
その音の間は、今までの日本映画にはない素晴らしさがある。聴いていて、苦いものを一瞬だけ忘れることができるような気持ちになる。
その気持ちの先に、光があると信じたい。
いや、待て、もう光はすぐそこまで近づいているのではないか…。
そんな気持ちにさせてくれる映画。
素敵だった。

もう一つだけ言わせてほしい。
この『名前』の戸田彬弘監督は、深く、重く、明るく生きる“人間”を自然に描ける素晴らしい監督だと思う。

この映画を観て一番に感じたのは、戸田彬弘監督は、私がこの世で一番好きな映画祭、カンヌ国際映画祭にいつか登場してくれるだろうと本気で思った。
日本映画を観て衝撃的な瞬間を感じることができた。
これは正直な私の気持ちです。

これからの戸田彬弘監督の作品、日本映画に注目していきたい。
Mayumi

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