木葉

立ち去った女の木葉のレビュー・感想・評価

立ち去った女(2016年製作の映画)
4.1
長回し、モノクロ、3時間48分という長尺。
昔の恋人によって濡れ衣を着せられ30年間も投獄されていたある女の復讐をカメラは追う。
ワンシーンワンカット、4時間弱、狂気の沙汰のような映画であるが、蓋を開けてみれば長い時間を経てからこそ、主人公の喪失した長過ぎる30年間、憎しみと良心の狭間で揺れ動く葛藤を闇に重ね合わすことで感じることが出来た。
特に後半は素晴らしかったし、ラスト45分はスリルも感動もあり感極まった。
主人公の女性の存在感が大きい、ただただ大きいだけではなく、慈悲の心を持ち、弱者に対して優しさと慈しみを持ち接し、途中からは圧倒的な女神のように思えてくる。そして、物語は失われた30年を取り戻すための単なる復讐ではなく、思いも寄らない展開に逸脱していく。
それは、毎日昼と夜の時間の往復、普通の暮らしをして、主人公が毎日違う人(弱者)と出会い、話し、その人たちの暮らしを見て、人生に少なからず関わった時、相手に対して、慈恵の念が生まれ、何かしてやりたい、惜しみない愛を注ぐ母性にこちら側も、ぐっと引き込まれる。寓話的、政治的(フィリピンという国の独裁、腐敗しきった政治、貧富の差)、哲学的要素を盛り込み、赦しとは、贖罪とは、魂の救済とはということを最終的には考えさせられる。
そして、苦労に苦労を重ね、もはや悟りの境地に達したような、失う者がない者、女の、強さに打ちのめされる。
構図、時間、光と闇、善と悪、幻想と現実、聖と俗、モノクロの美しさ、徹底された長回しに、究極のロングショット、全てに神々しさを漂わせ、崇高な映画であった。
木葉

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