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ディザスター・アーティストのmのレビュー・感想・評価

4.9
アメリカ映画史に残る珍作映画「The Room」を撮ったヤツらの実録物語をジェームズ・フランコが監督・主演で映画化。共演はなんと弟デイヴ・フランコで、フランコ兄弟のブロマンスという一部界隈には最高の贈り物!

残念ながら「The Room」本編を日本で観る事はできないが、抜粋映像はYouTubeで観られるので是非ご覧になってみてほしい。観れば一目瞭然、大根芝居と馬鹿馬鹿しい脚本に恐ろしくチープなグリーンバック合成と映像で、3周くらい回って麻薬的に面白くカルト化したとんでもない珍品。この映画はそんな「The Room」を知っている方にはたまらない作品だが、知らない方でも問題無く充分に笑えて胸を打つ素晴らしい作品にもなっている。


今作では「The Room」の監督・脚本・主演を務めたトミー(ジェームズ・フランコ)と、出演者で彼の親友であるグレッグ(デイヴ・フランコ)の友情が軸になる。
監督としてのジェームズ・フランコの手腕は確かで、タイトル後すぐの彼らの演劇学校での出逢いのシーンからして鮮やか。恥をかく事を恐れて上手く演技できないグレッグの前に、ひっっどい演技ながら堂々と豪快に自分の演技を貫き通すトミーがヒーロー然として現れて(この辺の演出が絶妙に巧い)、あっという間にグレッグがトミーに惹かれていく様がコミカルさと切実さを両面備えた形で描かれている。

彼らは『映画の中で演技する』という夢を追い求めてLAに行き、上手くいかずに燻りながらやがて自分達の映画を作る道へと進んでいく。
トミーの演技がどうしようもなく酷い事も、彼らが後に作る映画「The Room」が凄まじく酷過ぎて逆に笑えるカルト映画になる事も既に知っている観客としては、目を輝かせてトミーに惹かれるグレッグや側から見るとかなりまずいトミー、映画作りに邁進していく彼らの姿が滑稽であると同時に、どうしようもなく切なくもある。
クランクインの際のトミーのオール・スタッフ・キャストに向けての挨拶で、まだ何も知らず映画作りに心躍らせているスタッフ・キャスト達の姿が笑えるし辛い。


LAに来てから少しずつ生じてきていたトミーとグレッグの間の溝は、映画作りの過程で決定的になる。人間力を試される厳しい瞬間に否応無く直面せざるをえない映画作りの辛い面が笑いを交えつつも結構シビアに描かれている。撮影現場でのゴタゴタと私生活での妬みによってスレ違っていく彼らの姿はコミカルながらも切なく苦い青春残酷物語。


最終的にかなり苦く重い映画になるかと思いきや、この映画はそうはならない。彼らは滑稽で笑えるが、しかしこの映画は決して彼らをバカにする事はなく、むしろ彼らが生み出した物の価値にスポットライトを当てる。彼ら自身が思ってもいなかった価値に。これはフランケンシュタインと呼ばれる男への、そして全てのもの作りに携わる冴えない人々への、ちょっとしたエールなのだと思う。もの作りの苦しみと哀しみと喜びとが、コメディ映画の奥底でしっかりと息衝いている。最高に笑えて切ない青春映画だった。


フランコ兄弟の演技は素晴らしく、特にジェームズ・フランコは完璧にトミーに成り切っていてもはや原型を一切感じさせない。
冒頭からとんでもない大物監督が登場して、至る所に豪華キャストが出演していて恐るべしフランコ人脈。特にあのディズニー出身若手スターと「ハン○ーゲー○」のあいつは大暴走。最大の謎は○○○○○・○○○○○○(フィルマークスには思いっきり名前出ちゃってますけど一応カメオなので伏せ字)とジャッキー・ウィーバーが出ている事で、何故出たの・・と思いつつ、ジャッキーの役者にまつわる台詞には役者という存在への愛があり、思わず胸が熱くなった。

エンディングで流れる「The Room」との比較映像で分かる完コピっぷりが凄くて、ここでもう大爆笑。この映像があるから、「The Room」の知名度が無い日本で公開しても問題無くイケると思うのだけど・・日本公開してくれないかな・・・

それにしてもトミー、あの人一体何者なんだろう。謎は深まるばかり。
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