シネラー

THE BATMAN-ザ・バットマンーのシネラーのレビュー・感想・評価

5.0
製作過程やコロナの影響で
紆余曲折しながらも、
ようやくの公開となった
バットマンの約10年振りとなる単独作品
を劇場で鑑賞。
個人的には『ダークナイト』を越えて
マイベスト映画に入る位に
好きな大傑作だった。

物語としては、ブルース・ウェインが
バットマンとなって2年が経つ頃、
謎のメッセージを残す連続殺人が発生し、
バットマンが犯人であるリドラーの謎を
解き明かしていくという
サスペンス・ヒーロー映画となっている。
単純な勧善懲悪なヒーロー映画でなく、
原作コミック等で描かれる
バットマンの"世界最高の探偵"という
部分にフォーカスしている為、
サスペンス・スリラー映画にヒーローを
挿入した作風だと言えるだろう。
だからと言って物語は謎解きの
一本調子になっている訳でなく、
バットマンらしいアクションに加え、
ウェイン家の過去やセリーナこと
キャットウーマンの話が描かれていき、
多くの要素に富んだ内容を
破綻させる事なく、一本の筋道として
描き抜いていて見事だった。
劇中の多くの場面が暗い事と
内容のシリアスさが合わさり、
作中の雰囲気は陰鬱と言っていい。
しかし、そのトーンとバットマンの
組み合わせは本当に素晴らしく、
夜の暗闇に雨といった状況下での
バットマンはとても魅力的に感じられた。
バットマンの悪党に対する徹底的な
制裁行為は恐ろしくも格好良く、
バットシグナルが悪党から畏怖する
象徴のように描かれるのは、
個人的に好きな描写の一つだった。
そのバットマンだが、
本作ではその若さや経験不足からの
未熟な点があるだけでなく、
バットマンとして復讐心が強いという
精神的未熟さも見受けられる
キャラクターになっている事で、
彼の復讐者からヒーローへの成長が
劇中で描かれるのも素晴らしかった。
キャットウーマンとバットマンの
惹かれ合うお約束の関係も描かれていくが、
彼女も復讐に囚われるキャラクター
として描かれていく事で、
全く余計なキャラクターになっていない
と感じられた。
メインヴィランであるリドラーも、
『ジョーカー』の様な社会的貧困層
による歪んだ動機に加え、
暗闇に潜む殺人犯という怖さを有しており、
下手なホラーよりも狂気的で怖い
ヴィランだと思った。
その中で本作は『ジョーカー』での
問題提議への回答とも言える部分があり、
バットマンとジョーカーの違いは互いの
病院の場面で決定的に感じられた。
お互いに人間的な闇を抱えてながらも、
何がヒーローとヴィランを分けるが
結末までで描かれていると思えた。
更に言うと、徹底的なリアルな作風の中
で違和感となる存在は、
バットマン自身と言えるだろう。
蝙蝠コスチュームの彼だけが
絵面的に浮いた存在となっている事に
違和感を覚える人もいるだろうが、
それによってバットマンの浮世離れした
異常な存在をより提示しているようで、
"THE BATMAN"に相応しい示し方だと
解釈できる部分だった。

僅かな不満点を挙げると、
バットモービルのカーチェイスは
とても格好良くて最高ではあったが、
追われるヴィランのペンギンは
誤解で追走されている為、
見せ場づくりとミスリードの為という
脚本の拙さが感じられてしまった。
又、中盤以降は警察から
追われる身になるバットマンだが、
最終的に何事もなかったように
ゴードン以外の警察とも一緒に
行動しているのは疑問だった。

話が本編とややズレてしまうが、
日本での公開日が奇しくも震災の日
である上に劇中の終盤で水害描写がある
ので、その点は留意しなければならない
部分と言えるだろう。
しかしながら、それに対する劇中での
バットマンの行動は何とも
日本人として感慨深くなる描写であり、
実際にあの日にもバットマンのような
ヒーローがいたのだろうかと
考えが過る部分だった。
現実で起きてしまう災害に対する、
架空の存在であるヒーローの一つの
映像作品としての応えのように思えて、
何となく涙腺が刺激される場面だった。

次回作のアイデアもあるとの事だが、
一本の映画としてしっかり完成されており、
シリーズの初心者でも問題ない
良い映画だと思った。
重厚なサスペンスのダークヒーローを描いた、
素晴らしいバットマン映画だった。
映画の内容と長さと相まっての
自身最長の長文レビュー、
失礼致しました。
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