櫻イミト

裏階段/裏梯子の櫻イミトのレビュー・感想・評価

裏階段/裏梯子(1921年製作の映画)
4.0
前年の「カリガリ博士」(1920)や「サンライズ」(1927)の脚本家カール・マイヤーによる無字幕・室内悲劇三部作の第二作目。※第一作目「破片」 (1921)はfilmarksに記載されていないため本欄に後述。

「笑う男」(1928)のパウル・レニが共同監督と美術監督。後に「ジェニーの肖像」(1939)を監督するウィリアム・ディターレが助演。

ベルリンの片隅の古いビル。裕福な家の女中は恋人からの手紙を待ちわびていた。同じビルの半地下には郵便配達夫が住んでいて彼女に恋している。ある日、彼は彼女を喜ばせようと恋人になりかわって偽の手紙を書いて届ける。嬉しそうな彼女の姿に、彼はその後も過ちを続けてしまうが、遂に恋人が帰ってきた。。。

ドイツ表現主義を体現したような凄い作品だった。映画の殆どの舞台は、女中と郵便配達夫それぞれの部屋、そして二つの部屋を結ぶ薄暗い裏階段。この裏階段のアリの巣のような美術が素晴らしい。二人は日陰者として描かれ、他の人々はすりガラスに映る影で示される日向の者たちである。日陰の世界で温められたロマンスに、日向からの恋人が介入することにより物語は破滅へと向かう。ヒロインは裏階段を登って天を目指し、外界に出たところで地に落ちる。

陰惨な悲劇が光と影の映像言語で語られていく。字幕が無い(時間を示す字幕と手紙はある)ため暗示、暗喩が際立ち想像の楽しみを満喫できた。それが無字幕三部作の狙いなのだろう。早逝の天才パウル・レニ監督の貴重な初期作としても再評価されるべき傑作だと思う。

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「破片(Scherben) 」1921年(50分)
☆☆☆★★3.0
監督ループ・ピック
脚本カール・マイヤー
主演ヴェルナー・クラウス「カリガリ博士」

カール・マイヤーによる無字幕・室内悲劇三部作の第一作目。

山奥の鉄道沿いにポツンと踏切番の一家が暮らしていた。初老の父、敬虔な妻、若い娘の三人が朝食をとっているとモールス信号電信機が「明日、鉄道監督官が訪ねる」との電報を受信する。その時、突風が部屋のガラスを割り、娘が破片をほうきで片付ける。翌日、尊大な態度の鉄道監督官が一泊の予定でやってくる。その夜、物音に気付いた母は娘の部屋を訪ねが不在。音がする監督官の部屋は内鍵がかけられていたため、斧で扉を破って中を覗くと。。。

とても悲惨な話だった。美術的には特筆するものはないが、列車から見る線路の主観ショットや雪中の十字架など暗喩を感じさせる興味深い映像は諸所に見られた。無字幕(一日目~五日目までの日付のみ字幕あり)で充分に物語を伝える実験作のようにも思えた。字幕がないため映画は暗示性を帯びていて、例えば”閉塞状況の家族に置かれた若い娘の無意識の脱出願望”など、構造主義的に観れば様々に解釈できる。しかし本作の場合は純粋に悲劇として鑑賞するのが真っ当なようにも思う。
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