けー

キックスのけーのネタバレレビュー・内容・結末

キックス(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

ベイエリアに住む15歳のブランドンは小柄な体付きのせいもあってかよくいじめの標的にされていた。ブランドンは同級生でいつも一緒にいるリコとアルバートが自分よりも遥かに自信を持って生きている様子なのが羨ましくてたまらなかった。

 自分もエア・ジョーダンのスニーカーを手に入れれば2人のように自信がもてるのではないかと考えるが高価で手が出せない。

 そんなとき、クレイジー・ダリルがエア・ジョーダンを店頭価格よりも安くするから買わないかと話を持ちかけてくる。子供の時からの貯金で買える値段だったことからブランドンはついに念願だったエア・ジョーダンを手に入れる。

1984年にマイケル・ジョーダンとナイキがコラボレーションしてエア・ジョーダンシリーズのスニーカーをリリースしたときから、スニーカーに対する価値観が激変。スニーカーはステイタスの象徴となり、コレクター心をくすぐるヴィンテージとなった。

レアものになれば高値がつく。
コレクター心理はコレクターにしかわからない。
コレクターのニーズもコレクターにしかわからない。


エア・ジョーダンを身につけるということは皆が欲しがるものを身につけているということで、かつ、高値で売れるかもしれない金目のものを無防備に晒しているということでもあり、それをするからには狙われるかもしれないというそれなりの覚悟と心構えがいるのだがその認識がブランドンにはなかったため、トラブルに巻き込まれることになる。

80年代、ゲットーをラジカセを持って歩くということは、それを奪われないタフさの証明でもあるとLL cool Jがインタビューで話していたことがある。
これを初めて知った時は本当に驚いた。
LL coo Jが「あまり言われないことだけれども」と言った通り、まさかそんな意味があるとは思いもよらなかったからだ。

少し事情は違うかもしれないけれど、「アメリカン・ギャングスター」でフランクが警察に目をつけられたのも一夜だけ恋人からプレゼントされた高価なコートをきてボクシング観戦に行ったせいだった。
要は高価なものを身につけるということは目をつけられるということだ。

エア・ジョーダンを手に入れたグレアムにはその覚悟が全くなかった。
案の定、目をつけられスニーカーを奪われてしまう。

しかし、諦めきれなかったブランドンは靴を取り返そうとする。

そのブランドンの無謀かつ無防備な行動の恐ろしさたるや。よくもまぁ死人が出ずに済んだなと。しかもリコとアルバートがめちゃくちゃいい友達なのだ。

とんでもないことに巻き込まれ、完全に腹を立てているのにそれでもブランドンのことを見捨てはしない。

危ないのにちゃんと助けに来てくるし、見捨てていくこともしない。

もうこの2人の友達を得ているだけでブランドンは人生でかけがえのないお金では絶対買えない宝物を手に入れているというのに、スニーカーなんかに拘ってこの2人のどちらかが死んだらどうするつもりだったんだ!と問いただしたい。

加えて、スニーカーを奪ったフラコも凶暴極まりないのだけれども、彼は彼なりに幼い息子を懸命に大切に育てようとしていたというところで、靴のことであの男の子からお父さんを奪うようなことしちゃダメだぞーブランドン...😰というなんとも複雑怪奇なドキドキ感でいっぱいになるっていう。

「Boyz n the Hood」と「Menace II Society」と「Juice」を足して「Dope」で割ったような。
内容的には前者三つと同じダークさがあるのだけれども、雰囲気は「Dope」的タフさというか明るい逞しさ的なものがあったかなと。

宇宙飛行士のメタ表現やHip-Hopでの章立てなど趣向を凝らしていて、それによる効果が面白いと感じたものの、多少微妙なところもあって...手放しに好きとは言えないのがちょっと残念。

Hip-Hopのフレーズとストーリー展開を軽くリンクさせていたのとか面白かったと思う。でもコミカルを維持するにはちょっと相当重い事態が画面で展開しすぎていた気もしないでもなく....。



あとマハーシャラ・アリがブランドンの叔父さん役で出演。
服役経験のある元麻薬ディーラー。
物静かなんだけれども凄みがある感じで。でも介護しているお母さんへの思いやりなんかはお母さんの腕をマッサージしてあげている仕草なんかで伝わってきて、やっぱりこの人の雰囲気作りの妙というか存在感はすごい。
けー

けー