光を失った眼
光を失った言葉
光を失った行動
光を失った人生
それらと正対するもの。
2年前ふと機内で見た河瀬直美監督の前作「あん」。
四季の美しい情景と登場人物の動きに、ただただ魅入られ、全身を静かに揺さぶられ続けられたようで言葉を失った。
人物を近影で捉え、身振りや手振りでは誤魔化せない感情表現。
余計な説明や言葉は削がれていても、言葉や感情や思念がとどめなく溢れて苦しい。
言葉に言葉を重ねてエゴを押し付けあってる空虚な会話。
日頃の自分は、時に語り、時に押し黙り、飾らず言動出来ているか?
光を失った人の表情にはわかりやすい言葉は当てはめられない。
果たして自分はどんな表情で言葉を吐いているのか?
周囲の目に日々晒されているそれに、自分自身なら醜悪が漂っていそうで直視出来ないだろう。
帰り道、靖国通りを歩きながら、ビルの壁面に、シャッターに、ショーウインドーに指を這わせて、ゆっくりと瞬きをして、歩いてみた。
いつもより夜の闇は黒く、ネオンが光り輝き、工事現場の照明灯に目が眩んだが、街行く人の足取りや表情が映像のように飛び込んで来た。
カンヌ出品に相応しい作品。
同時代を生きる日本人映像作家に河瀬直美監督がいる幸福。
どんなテーマもどんな人間も、彼女のフィルターででしか捉えられない映像を、奈良の街という限定された空間で表現してくれると信じられる。
2017劇場鑑賞58本目