あしたか

光のあしたかのレビュー・感想・評価

(2017年製作の映画)
4.0
[あらすじ]
人生に迷いながら単調な日々を送っていた美佐子は、ある仕事をきっかけに弱視の天才カメラマン・雅哉と出逢う。雅哉の無愛想な態度に苛立つ美佐子だったが、彼が過去に撮影した夕日の写真に心を突き動かされる。美佐子はいつかこの場所に連れて行ってほしいと願いようになり、彼の内面に興味を持ち始める。雅哉は命よりも大事なカメラを前にしながら、次第に視力を奪われていく。彼と過ごし、その葛藤を見つめるうち、美佐子の中で何かが変わり始める(dTVより)


お仕事ムービーとして★★★★☆
恋愛ドラマ★☆☆☆☆
藤竜也★★★★☆
音楽★★★★★
感動★★★★☆

主人公・美佐子のしている仕事というのが、情景を言葉で説明する、視覚障害者向けの映画の音声ガイドを作るというもの。
これの制作過程を描く序盤の描写が大きなインパクトをもたらす。実際の視覚障害者の人たちに映画を見てもらいながら原稿を読み、その音声ガイドが適切だったか/分かりやすかったかという意見を聞き、原稿を修正する作業を延々と繰り返す。時にはモニターの視覚障害者から厳しい言葉を貰うこともある。
多くの人には想像も付かない仕事であり、そのヘビーさには新鮮味を感じると共に驚く。お仕事ムービーとしては『おくりびと』以来の衝撃的なオープニングである。

このおかげで最初から映画の世界に一気に入り込めたし、間違いなくこの映画は面白いだろうと確信を持ったし実際面白かった。

この映画は一応恋愛映画として宣伝されてるようなのだが、自分は正直恋愛要素は全くの無駄だと思った。取ってつけたようにキスシーンを入れられても感情移入の余地はない。
美佐子が雅哉に抱く感情はそういった類のものではなく、視力を失う為にカメラ(写真)と決別しなければならない極大の苦しみを抱えることに対する憐情であり愛憐であり同情であるべきだった。というか、実際映画の中ではそういうものとして描かれていた。にも関わらずそれをすぐに恋愛感情に変換するのは安易で浅はかだと感じた。
恋愛ドラマにすることで理解を得やすくしたいという狙いがあったのかもしれないが、正直言ってそんなものなくてもこの映画はかなり面白いし重厚な人間ドラマとして成立している。若干余計な要素を付け足されたなと思う。

雅哉はモニターとして音声ガイドの表現に難しい要求を続ける無愛想な視覚障害者であり、しかも写真をもうほとんど撮れないカメラマン。彼に接することで美佐子の中の価値観と仕事に対する思いに変化が生じるという構図に、既に充分なドラマがあったし、かなり見応えがあった。

美佐子が劇中でずっと取り組んでいる問題に、担当しているある映画のラストシーンの表現(音声ガイド)をどうするかというものがあった。
悩みに悩み抜いた美佐子が雅哉との交流を経なければ確実に用意できなかったであろう言葉が、最後の最後に聞こえてきた瞬間には大きな感動を覚えた。これこそがこの映画の伝えたかったことなのだと、心を震わせるしかなかった。その直後にタイトルバックで画面に現れる「光」の文字まで含め、完璧な流れだったと言わざるを得ない。


P.S.アドリブでやってるかのような自然な演技が凄い。前半はほとんどドキュメンタリー。
あしたか

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