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アウトレイジ 最終章のnetfilmsのレビュー・感想・評価

アウトレイジ 最終章(2017年製作の映画)
3.8
 白の軽トラが走る風光明媚な海岸線、浜辺には海が拡がるが90年代の「キタノ・ブルー」のような原色の海ではなく、やや水色がかった穏やかな波をしている。桟橋には等間隔に柱が置かれ、その上を電球と送電線がダラリと伸びる。今作で大友(ビートたけし)が日本から身を隠すのは、韓国の最南端に位置する楕円形をした済州島である。大友はこの地で盃は交わしていないものの、市川(大森南朋)という子分を従えている。太刀魚を取ろうと糸を垂らした市川に対し、大友は「太刀魚を釣ろうとしたら夜じゃないか」と単純な疑問を投げ掛けるのだが、この台詞は今作の本質を射抜いている。一転して済州島の夜の歓楽街、ネオンが煌めく怪しげな欲望の街で1本のクレーム電話が鳴る。モンスター・クレーマーとなる花田(ピエール瀧)は「花菱」の名前をチラつかせながらこの地でも吠えるのだが、張グループ会長の元で隠遁生活を続けていた大友の古傷が疼く。大友と市川に一気呵成に凄まれた花田は単なる興味本位で「あんたの名前はなんだ?」と大友に聞くのだが、「名前なんて知らねえよバカヤロー」と再び凄む。90年の『3-4x10月』や93年の『ソナチネ』では、主人公はやむを得ない事情で首都から沖縄へと渡り、01年の『BROTHER』ではLAへ渡ったが今作も例外ではない。昼間の海に釣り糸を垂れる市川の横で、呑気に週刊誌を読む大友の姿は、緊張と緩和で言えば明らかに緩和で久方ぶりの束の間の平和を謳歌している。

 前作『アウトレイジ ビヨンド』同様に、犬死にさせられた無残な若者の死から大友は怒りに打ち震える。太刀魚を釣るために二度目に市川が糸を垂らしたその時、言いようもない怒りに襲われた大友の銃弾は連続で波のない海に撃ち込まれるのだが、彼らが去った後に昼間釣れるはずのない太刀魚が奇妙にも浮かび上がる。今作の奇妙さはこの浮かび上がる太刀魚の死体に象徴される。死に行く男たちの奇妙な連鎖は乾いた狂気となり、静かに暴走を始める。最終章から初めてメンバーに加わった北野組やニューカマーのインパクト以上に、武本人が思い入れたっぷりに描いた花菱会若頭の西野(西田敏行)と若頭補佐の中田(塩見三省)の存在感が圧倒的に素晴らしい。前作から5年、プライベートで大病を患った2人に監督は何らかのシンパシーを抱いているのは間違いない。西野や中田との対比で描かれる花菱会会長の野村(大杉漣)の右往左往する場違いさ、花菱会若頭補佐の森島(岸部一徳)の飄々とした風の読み具合は、仁義を貫く一本気なヤクザである大友とは実に好対照な人物として登場する。『BROTHER』の「Fuckin' Japくらいわかるぞバカヤロー」の延長線上に位置する張会長(金田時男)の中田と花田の内緒話への激昂、野球しようかならぬキャンプしようかとちらつかされた男の最後の瞬間、ハイスピードカメラで撮られたパーティ会場のマシンガン乱射。『アウトレイジ』シリーズ史上、最も物哀しい雰囲気を讃えたクライマックスに置かれた一瞬の静寂にただただひれ伏す。
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