小波norisuke

ルージャ/薔薇の小波norisukeのレビュー・感想・評価

ルージャ/薔薇(2011年製作の映画)
4.5
第二次世界大戦後にポーランド領となったマズールィ地方を舞台に、複雑な民族的アイデンティティを有する男女が出会い、苛酷な時代を生き抜こうとする姿を描く。

国内軍将校タデウシュは、遺品を届けにマズールィ地方に住むドイツ兵の妻ルージャを訪ねる。ルージャは、はじめはタデウシュを警戒するが、地雷の除去を依頼したことをきっかけに、二人は信頼を築き、愛し合うようになる。

現在は風光明媚な観光地となっているようだが、マズールィ地方は、度重なる戦争と占領を経験し、この地に住む人々は、ポーランド、ドイツ、スラブの影響を受けた独特の文化を形成している。本作で描かれる戦争直後の動乱の時代、マズールィの人々は、戦後入植してきたポーランド人からはドイツ人と蔑まれ、赤軍やロシア軍による強奪や暴力に晒されていた。

殊更に、あまりにも頻繁に軍人たちが性暴力をふるうことに、戦慄する。人類史において繰り返されてきたのだろうが、加害者はこのような暴力によって、本当に何らかの欲求を満たすとか、悦びを得るとかが可能なのだろうかと改めて疑問に思う。過去に、この土地を離れることを試みたルージャは、兵士たちの性暴力によって阻まれた。逃げることすらできずに、暴力に怯えながらの生活はどんなに息苦しく辛いことか。

そのような苛酷な日々の中で、最初は険しい表情だったルージャが、タデウシュと愛し合うようになり、非常に満ち足りた穏やかな表情を見せるようになる。その表情が美しく強烈に印象に残る。人間に絶望したくなるような状況で、こんな安らかな表情をたたえることが可能なのか。スマジョフスキ監督によると、本作の主題は「非人間的な時代の愛」。辛い話であるのに、人間が愛し合うことの力を感じた。

「イーダ」でも強い魅力を放っていたアガタ・クレシャが、ルージャ(薔薇)という名にふさわしく気高い女性を演じていて圧倒された。全体にセピア色がかった画面が美しい。

ポーランド映画祭2016にて鑑賞。
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