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夜は短し歩けよ乙女のkouのレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
3.5
《関係性の中へ》
2010年、「ノイタミナ」枠で四畳半神話大系が放映された。僕はそのころ大学生でASIAN KUNG-FU GENERATIONと中村祐介がとても好きだった。そんな大学生だったから、勿論アニメを毎週楽しみにしていた。四畳半神話大系は大学生という金はないが時間と自由がある可能性に溢れた時期を、多くの可能性の方向をパラレルワールドとして見せることでファンタジックな要素を加え、しかしそれが思考の中で留まってしまう憂鬱を描いた。特に最終話とその前の話が素晴らしく、哲学的であり、モラトリアムからの脱却と成長を描いた傑作だと思う。

今作は劇場アニメが「マインドゲーム」以来になる湯浅正明監督。キャラクター原案を中村佑介、主題歌をASIAN KUNG-FU GENERATIONが勤め、四畳半神話大系以来6年ぶりにスタッフが揃った劇場アニメーション作品。本作のタイトル通り、乙女が夜の町をぐんぐんと進んでいく。

湯浅監督の独特な映像表現、他に類を見ないアニメーションというのも健在。また、まくし立てる台詞やロジカルな言い回し、シュールな展開なども四畳半神話大系から更にグレードアップしているのではないだろうか。また、現実と非現実的な微妙な混ざり方というのも絶妙。電車や火鍋の場面はとてもおもしろかった。あとは乙女の魅力的なこと。四畳半神話大系のヒロインも素敵だったが、ふんわりと、それでいて意思を持って、自分の価値観で多くの人を惹きつけていくその姿がとても可愛らしかった。

今作では「縁」という言葉がよく使われる。夜の街を乙女が進むたび、先輩(星野源)が乙女を追いかける間に、知らない人たちとの繋がりができていくのだ。ある出来事は回り回って何かに関係していく。それは酒だったり、鯉だったり、本だったり、風邪だったりするのだが、ある繋がりの中に登場人物達はいて、しかし先輩だけが乙女の縁の中から外れているのだ。

そして終盤、非現実的なシーンが畳み掛けるように続く。それは先輩の自意識が世界となっていく。そのダイナミックさ、映像表現の新しさがあった。今作はある集団の中のひとりが、集団の縁の中に入り込んでいく瞬間を描いていると思う。とても爽やかで、幸福感のあるラストに感動した。

星野源を始め、声優も素晴らしかった。アジカンの曲も最高。四畳半神話大系が好きだった人は勿論、湯浅監督の作品が初見の人でも楽しめる内容になっていると思う。
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