Inagaquilala

デ・パルマのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

デ・パルマ(2015年製作の映画)
4.0
確か、ブライアン・デ・パルマの作品を初めて観たのは、ニューヨークの五番街にあった劇場だったと思う。タイトルは「Dressed to Kill」、つまり「殺しのドレス」だ。当時、マンハッタンを案内してくれた映画関係者の知人が、これはいま話題の作品で、監督の才能は高く評価されていると聞かされた記憶がある。

「殺しのドレス」は1980年の作品で、スティーヴン・キングの小説「キャリー」を映画化した監督として記憶には刻まれてはいたが、実作品を観るのは初めてだった。知人からの前振りもあったが、当時、英語もままならなかった自分でも、映像だけで充分に感じ取れる強烈なサスペンスがそこには満ち溢れていた。

結果的には「殺しのドレス」あたりから、ホラー映画の監督というイメージは払拭されていき、ブライアン・デ・パルマはアルフレッド・ヒッチコックの再来と喧伝されるようになる。81年の「ミッドナイトクロス」、83年の「スカーフェイス」、84年の「ボディ・ダブル」、87年の「アンタッチャブル」、89年の「カジュアリティーズ」、そして90年、トム・ウルフの小説を原作とした「虚栄のかがり火」が大不評で再起不能状態に追い込まれるまで、80年代に彼が撮った作品のほとんどを劇場で観ることになる。

この作品は、そのブライアン・デ・パルマにインタビューし、彼の話をもとに、そのフィルモグラフィーを振り返る構成となっている。本人がひとつひとつの作品に触れながら、その映像も交え、語りつくしていく。自分としてはかなり丁寧につくられた作品という印象だ。語られるエピソードのなかでは、スティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカスとの交流、ポール・シュレイダーが書いた「タクシードライバー」の脚本をマーティン・スコセッシに譲った話、シドニー・ルメットが監督する予定だった「スカーフェイス」を撮るにあたってオリバー・ストーンに新たに脚本を書かせた裏話、そんな映画人との交流エピソードが意外で面白い。

それにもうひとつ意外なのは、この監督のひとりに名を連ねているノア・バームバック。「イカとクジラ」、「フランシス・ハ」などの作品でマンブルコアの流れを汲む監督として捉えられている彼が、この作品の監督も買って出ていることだ。どちらかというとインディーズの個人映画的色彩が強いバームバックがブライアン・デ・パルマのファンだったとはちょっと驚きで、劇場に足を運んだのも、その監督クレジットによるものだった。

いずれにしろ、ニューヨークで初めてブライアン・デ・パルマの作品を観たとき、言葉がまったくわからなくても充分に楽しめたのは、やはり彼がつくりだす映像のマジックのおかげだったと思う。その裏側を知ることができるこの作品は、なかなか貴重だ。シネマカリテ新宿の「カリコレ2017/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2017」で観たのだが、会場は満席で、こんなにブライアン・デ・パルマ監督のファンはいるのだなと思い、心を強くした。
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