風の旅人

三度目の殺人の風の旅人のレビュー・感想・評価

三度目の殺人(2017年製作の映画)
4.0
「色即是空・空即是色」

事件の様々な証拠と証言を因果関係で結び、被告人に不利な「物語」を作る人を検察官と呼び、反対に有利な「物語」を作る人を弁護士と呼ぶ。
そして両者の「物語」を天秤にかけ、どちらがよくできているかをジャッジ(判断)する人を裁判官と呼ぶ。
弁護士である重盛の父親(元裁判官)は、精神鑑定が検察側と弁護側で180度変わることを例に取り、「精神医学は科学というより文学だ」 と言う。
しかしそれは精神医学に限らず、我々の生きる世界そのものを表している。
「事実というものは存在しない。あるのは解釈だけだ」と言ったのはニーチェだが、三隅の二転三転する供述に翻弄される重盛(観客)は、その度に新しい「物語」を捏造する。
「空っぽの器」と称される三隅。
それは「無」ではなく「空(くう)」。
三隅という容れ物を通して、様々な「物語」が生まれる。
接見室のガラスの仕切り越しに会話を交わす重盛と三隅が、しだいに同一人物であるかのように見えてくることが怖かった。
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