逆鱗

空(カラ)の味の逆鱗のレビュー・感想・評価

空(カラ)の味(2016年製作の映画)
4.0
人間の悩みは全て対人関係の悩みである。(心理学者:フィリップコトラー)

自分でも理解できないどうしようない苦しみを抱えたこの作品の主人公の摂食障害も対人関係が起因しているように思える。

まず、親との関係がそうだ。
娘が悩み苦しんでいるのに、娘に「なぜ相談しない?いつもお前のことを心配しているのに」と親の感情を押し付けてくる。
兄も苦しむ妹と正面から向き合わない。

学校は苦行の場だ。友人や知人達が全てを持っている側に思えて自分と比べて不要に苦しむ。

そんな主人公が立ち直るきっかけとなったのが、自分よりさらに苦しんでいるマキという女性だったことが何とも言えない。
もちろん心療内科に通院していることも立ち直るきっかけである。

マキは気付く、主人公の少女が、立ち直りつつあることを。そうしてさらにマキは苦しむ。自分の仲間だと思っていた少女が先に行こうとしている様子に。

そんな少女は、マキの苦しみには不必要に踏み込まない。
ただ、生きて欲しい、私は先に行くわけではない、とだけ伝える。
「他人の課題に踏み込むな。ただ、真正面から受け止めて、望めばいつでも手を差し伸べると伝えよ」(心理学者:フィリップコトラー)の言葉がラストシーンを見て浮かんだ。

以下、蛇足。
インディーズだって面白い映画は作れる。これも映画の良さ。

主人公のサトコが、終幕時は服装が垢抜けて明らかに精神的に立ち直っていることが、外見からもわかる。
摂食障害ただなかのときは、上下スウェットで街を歩いていたのと大違い。

サトコが立ち直るきっかけとなったマキは、明らかに躁鬱の症状がすごい。
一方的に話す、言っていることが数日前と違うことを全く認識していない、突如関西弁の日がある、激しいリスカの跡、完全にヤバイ雰囲気。
クレープの注文のシーンも、散々悩んで待たせて注文した挙句、やっぱり飲み物だけでいいですって、もう向こう側の人な感じがとても表現されていた。
ただ、サトコと過ごす時は、苦しいことを忘れられているようである。

この作品は綺麗な三幕構成である。
一幕は普通に暮らしているが摂食障害傾向が見えつつある。
二幕は親に摂食障害がバレ、学校に行かなくなり友人の家へ避難する。しかも食べ物欲しさに友人の家の金を盗みそうになる。
三幕は友人の家から実家に戻り通院を開始したきっかけでマキと出会う。
観賞者の心を揺さぶる見事な三幕展開であった。
逆鱗

逆鱗