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A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのamのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

1シーンあたりの尺の使い方がかなり贅沢だが、どの場面も静謐な美しさと切なさと悲しみに満ちていて、決して冗長とは言わせない画力(えぢから)があった。
暗い部屋でどこか投げやりな手つきで大皿のパイ(?)を黙々と食べ続ける妻を夫のゴーストがただ見つめ続けるシーンが痛々しくて悲しくて辛かった。

静止画かと思える程長尺で一場面を切り取ったかと思えば次の瞬間あっという間に時が進んでいたりして、奇妙な濃淡を成しながら進んでいく時間の描き方が巧みだった。あれが「幽霊の体感時間」なんだろうな。

ベートーベンの第九を引き合いに出して、「神や恋人を想って創作物(例えば音楽や書物)を遺しても、膨大な時間の流れの末に結局全て無に帰すのだから無意味だ」というような旨の長台詞があったが、これが作品の中で持つ意味は何だったのだろう。
この台詞が「一方向に時が流れ続けた末の"無意味"」を語っているのに対し、ゴーストは飛び降りと共に時間を遡り、その結果妻が壁の中に残したメッセージを回収して救済された、そこには確かに意味があった、、ということ?

時間の膨大さに言及する台詞の後、実際にゴーストが膨大な時を遡ってしまうあたりで話のスケールがかなり大きくなるが、最終的には妻が残したたった一つのメモでパッと終わってしまう(しかも観客に肝心のメモを見せてくれない!)というのが最高に切なく粋な演出だった。素晴らしき呆気なさ。
「メモ見せてよ!」なんて言うのは野暮というもの。

シーンの切り方からこの終わり方まで、とにかく観客に媚びた映画にはしないぜ、という気概が伝わってきて良かった。
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