イルーナ

夜明け告げるルーのうたのイルーナのレビュー・感想・評価

夜明け告げるルーのうた(2017年製作の映画)
4.8
湯浅監督作品のファンですが、この作品は当時全くと言っていいほど話題になってなくて、存在を知らないまま上映終了になってしまいました。
しかしアヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリ受賞後リバイバル上映されるということで、イオン木曽川まで遠征して観に行きました。
(確か近所でまともな時間で観れそうな場所がなかったからこのチョイスになった)
その時はもう、腹の底からこの作品を観てよかったと思いました……!遠出した甲斐があったというか、遠出してでも見たからこそ、なおさら心に響いたというか。

今回も湯浅監督らしい「絵を動かすことの喜びや解放感」は抜群。
人魚の魔力で柱状やキューブ状になった海水に乗って空を飛ぶ描写は、日常から考えられない視点を与えてくれる。
登場人物たちが一斉に踊りだす所なんか音楽の楽しさを改めて感じさせてくれる。
ワン魚も可愛いし健気だし……
(そう言えばUSJの「セサミストリート 4-Dムービーマジック」にもワン魚いて笑った。あちらの方が先だったのか)

一方で、本作の舞台はひなびた漁師町「日無町」。そこには、人魚が船を難破させ人を食うという伝説があった。
カイの家には家族の遺影がズラっと並んでいるし、保健所の犬たちに、魚の骨が歩き出したりと、明るい中にも死のにおいが漂っている。
……こうして見ると池田敏春監督の『人魚伝説』っぽいな。同じ人魚でも、作風は真逆なのですが。
あと、人魚の設定がヴァンパイヤっぽいなと思っていたら、当初はヴァンパイヤという設定だったらしい。
つまりタイトルの意味は希望に満ちた言葉であると同時に実は……というダブルミーニング。しかも早い段階でその意味が明かされてますし。
また、田舎町が舞台だけあって閉塞感もしっかり描かれる一方、当初の夢は叶えられなかったけどここに戻って成功を収めた進路指導の先生の話も印象的だった。
夢が叶わなくても道はそれだけじゃないんだよ、というさりげないメッセージ。

そしてメインテーマとして使われた『歌うたいのバラッド』!作品のテーマにピッタリで、クライマックスのカタルシスが半端ない。
心からの「好き」や「愛してる」。不器用でもいい、ただそれを伝えるだけで、全てが救われる。
人魚を恨んでいたカイのじいちゃんとタコ婆が人魚になった愛した人たちと再会するシーンを見て、本当に泣けてきちゃうんですよ……
アンダー・ザ・シーは楽園で、死後の世界。そして日が差さなかった町は、人間と人魚の分かり合うことで明るい日が差す町へと生まれ変わる。
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