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逃げ去る恋のakrutmのレビュー・感想・評価

逃げ去る恋(1978年製作の映画)
4.0
前作『家庭』から9年後のアントワーヌ・ドワネルと彼に関係する女性たちを今までの回想シーンとともに描いた、「ドワネルもの」最終作にあたるフランソワ・トリュフォー監督のドラマ映画。映画の冒頭とラストに流れる、アラン・スーションによる主題歌『逃げ去る恋』が印象的。

アントワーヌは相変わらず地に足がつかないまま、サビーヌという女性と付き合いながらふらふらと暮らしている。妻・クリスティーヌとはついに離婚(フランス初の協議離婚という設定)が成立するが、その協議を担当した弁護士の知り合いが昔の彼女・コレットだった。その後、アントワーヌとコレットの再会をきっかけに、コレットとアントワーヌの物語が交差していく。

前年に制作・公開した『緑色の部屋』が興行的に失敗したため、その補填のために人気のあるアントワーヌ・ドワネルに頼って本作を制作したらしい。なので、今までの映画からの映像を回想シーンとして編集した部分も多く、ドワネルものの総集編のような作品になっていて、本作単体で見てしまうと満足なレベルとは言えないし、トリュフォー自身もそれを認めている。

一方で、これまでのドワネルものを見てきた人にとっては、ドワネルものすべてを懐かしむ効果もあってか、印象に残る作品だろう。何と言っても、今までのヒロインであるクリスティーヌとコレットが出てくるのは見どころか。特にコレットは本作では中心的な位置を占めているし、彼女を演じているマリー=フランス・ピジェは、本作の脚本にも参加している。でも、個人的にはクリスティーヌのクロード・ジャドのほうが好き。本作で初登場するサビーヌを演じているドロテもなかなか魅力的な女性。俳優というよりは歌手らしいけど、『レクレA2』や『クラブ・ドロテ』という子供向け番組のメインパーソナリティとして、日本のアニメや特撮作品を多く紹介した。

本作の特徴は何と言っても、同じ俳優たちによる長期間のシリーズものでなければ不可能な回想シーンであろう。同じ俳優が演じる登場人物がリアルに年齢を重ねていく様子は貴重である。また、過去のドワネルもの4作からの抜粋だけではなく、他のトリュフォー作品のショットも回想に使われているのも興味深い。有名なところでは、クリスティーヌの生徒として登場するリリアーヌとアントワーヌが言い争いをするシーンとして、『アメリカの夜』の映像が使われている。(『アメリカの夜』では、アントワーヌとは別の役でジャン=ピエール・レオが、ダニが演じるリリアーヌは同じキャラとして出演している。)さらに、アントワーヌが息子を肩車している回想シーンは、ベルナール・デュボア監督の『Les Lolos de Lola』からの抜粋である。なお、回想ながらも新たに撮影したシーンの中で、クリスティーヌとリリアーヌが描いているポスターは、エリック・ロメールの『聖杯伝説』である。
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