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逃げ去る恋のpikaのレビュー・感想・評価

逃げ去る恋(1978年製作の映画)
5.0
アントワーヌ・ドワネルの冒険⑤完結。
「大人は判ってくれない」から20年、自身の投影としてジャン=ピエール・レオと共にドワネルという人物の半生を描き続けてきたからこそ、レオと仕事をしてきたからこそできた華麗なるモンタージュの数々に驚嘆した。
「アメリカの夜」や「私のように美しい娘」のシーンをも盛り込んでくるところに、ただ同じキャラクターのシーンを切り貼りしているのではなく様々な映画のシーンを他作品に台詞を吹き替えて転用するという、映画の可能性を広げる実験的な意味での価値も大きい。

ドワネルの冒険として5作作られ、基本的にトリュフォーの意図でコメディ調に仕上がっていたがやはり根底にあるのは「大人は判ってくれない」で描かれている愛の渇望であり、本質をコミカルさで覆い隠しているという点に虚構の物語ではなく自身の自伝的な投影だからこその深みがある。

飄々と人生を漂流し、社会の波に乗れず無責任で不誠実なダメ男であるのに愛を求め続けるドワネル、そんな彼を見守ってきた女たちによって彼の本質を語らせ自己分析をしているようでもあり、
「アメリカの夜」でトリュフォー演じる監督がレオ演じる俳優に対して「彼はまだ子供なんだ」と言っていたように、これまで子供じみてきたドワネル、いや自分自身が本当の意味で大人になるという決意なのか結果なのか願望なのか、自分の作品を切り貼りした意図も含め、これまでの人生にも映画人としても明確な区切りをつけているようにも感じる。
それらを一切美談にせずコミカルながらも愚かな面を包み隠さない潔さも魅力。

これまで見てきたからこその集大成として、ドワネルという人物の冒険のエピローグとして存分に楽しめつつ、あの少年がここまで生きてきたよというエンドロールでジワっと感動した。
こんな映画体験なかなかできない。
映画好きでトリュフォーに出会えて良かった!ありがとうございました!
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