旅するランナー

サスペリアの旅するランナーのレビュー・感想・評価

サスペリア(2018年製作の映画)
3.4
決して、ホラーとしては観ないでください。

70年代ベルリンのバレエ学校を舞台に起こる摩訶不思議な惨劇。
第二次世界大戦終結とベルリンの壁崩壊のほぼ中間点であるこの時代のドイツにおける、正負のエネルギーが衝突するような衝撃がある。
多数決でナチを選び、その悪行を傍観する一般ドイツ市民への非難とも取れるし、極右が台頭し、国境の壁を再び建設しようとする現代社会へ警鐘を鳴らすとも感じられる。

魔術恐怖映画としては最悪だが、芸術教養映画としては最高の出来と言える。


<町山智浩トーク@TOHOシネマズ日比谷からの、この映画をより深く楽しむための情報>
・主人公はオハイオ出身で、ドイツ移民を中心とするメノナイツ信者である。運命に導かれてドイツへ向う。

・精神分析医クレンペラー氏は実在し、ホロコーストに関する著書も残している。この映画の本当の主人公はこの人だと言える。

・劇中のバレエは、ドイツ人女性マリー・ウィグマンが発案した暗黒舞踏が元になっている。一番有名なのが"魔女のダンス"。

・トム・ヨークの曲の歌詞には、"壁の中で踊り続けていれば、すべてうまくいく"とある。

・「ベルリン/天使の詩」は、天使が人の命運に関わらずに過ごしてきて、ラストで人間界に入っていくわけだが、この作品も同じ流れになっている。

・タランティーノがこの映画を観て感涙したらしいが、虐げられてきた側からの反逆を描き続ける監督だからだろう。

・エンドクレジットの後、主人公はベルリンの壁に向って魔法をかけているように見える。


決して、最後まで立ち上がらないでください。