旅するランナー

オッペンハイマーの旅するランナーのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
【プロメテウスの救済】

原爆の父、米物理学者J・ロバート・オッペンハイマー。
人類に原爆という最終兵器を与えてしまった男。
天上の火を盗んで人間に与えた罰として、ゼウスの命令でカウカソス山に鎖でつながれ、毎日、鷲に肝臓を食われるプロメテウスに彼を喩える冒頭から巧い。
この肝臓は夜の間に元どおりになるので,彼の苦痛は絶えることがない。

広島・長崎の惨状を知り、苦悩し始めるオッペンハイマー。
水素爆弾開発に反対の姿勢を示し始める彼を、米国政府は赤狩り・国家反逆罪の標的にする。
結局、政府や軍に、いいように使い捨てにされる男の末路が悲しい。

キリアン・マーフィは勿論のこと、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jrら豪華キャストが渋い好演で魅せる。
聴聞会での地味な会話劇、多人数による群像劇を、ここまでスリリングに3時間描き切った演出も見事。
だが、原爆の実使用を止められなかった責任は彼にもあると思え、どうしても、感情的に高得点を与えられない。

苦悩し続けたプロメテウスは、ヘラクレスによって救われる。
オッペンハイマーをある意味救った、クリストファー・ノーラン監督こそが現代の英雄ヘラクレスとは言えそうだ。