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海辺の生と死のkouのレビュー・感想・評価

海辺の生と死(2017年製作の映画)
3.5
《奄美の神秘性、人間の原始性》
越川道夫監督。島尾ミホの同名小説と島尾敏雄の「島の果て」を原作にし、満島ひかりが主演を務める。奄美大島の自然の神々しさのようなもの。神秘性というのがとても印象的な作品だった。また、満島ひかりという女優の力強さと、その美しさに溢れている作品だと思う。

奄美大島の島を舞台に、小学校の教師とし働くトエが海軍の特攻艇の隊長、朔と出会う。本を借りたいと朔がトエの家に行ったことから知り合い、次第に好意を抱きあうことになる。戦争は激しさを増し、沖縄は陥落、遂に朔が出撃する時を迎える。

監督がインタビューで言っているのは、戦争を舞台にしたロマンティックな作品にしたくなかったということだ。その発言通り、今作は決してロマンティックな恋愛映画的な内容ではない。とくにそれが印象的なのは、朔との密会のため、夜の海を進むトエの姿だ。それはある意味動物的な印象すら持つ。とても原始的な、神秘性を帯びているような印象を持つのだ。

その神秘性、原始性を奄美大島の唄と景色が深めている。奄美の人はなにかがあると、必ず歌を歌ってきたという。島の唄には歴史と記憶が刻まれているのだ。また、例えば夜の海、夜の森、島全体が持つ雰囲気が映画全体を通して感じられる。

今作では、例えば食事を作ったり、自然の美しい様子が描かれる。なんてことのない日常だ。しかしそれこそが戦争や震災と言った極限の状態に抵抗になりえると監督は言っている。戦争という人間の争いを前に、彼女たちの生活は続いていくのだ。

文学的であり、静かな一作であるが、とても不思議な感覚のある映画だった。満島ひかりの演技、そして存在感が素晴らしかった。
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