しの

バトル・オブ・ザ・セクシーズのしののレビュー・感想・評価

3.7
テニスの一試合に様々な文脈が付与される。映像の質感は我々を70年代に連れ戻し、当事者と消費者の両視点から当時を体験させる。ラストの試合では、否が応でも背負わされるフェミニズムと、人が自分らしく生きたいという痛切な願いを、「観客」の立場で体感することになる。

映画であることを巧く利用した作りだと感じた。試合前は「当事者」のドラマ(ここがちょっと鈍重に感じたが)を映し、カメラも人物に寄り気味。その後試合が始まると徹底した引きの画でテレビ映像のように見せ、「消費者」の視点に立たせる。これが最後の試合に「男対女」だけでない複雑さを持たせる。

そこにあるのは、何かを物語として消費する構造だ。一度それが「世紀の試合」として放送されると、企業やメディアは分かりやすく消費できる対象として盛り上げ、我々含む視聴者はそこに物語を見出して参加する。一方で、映画は当事者の物語も映すことで、あの試合にそうした文脈を超えた、普遍的な人間の生をも見出させるのだ。

つまりはこういうことである。確かにあの試合は歴史を変えた。しかし、そこで展開されたのは、人間同士が自身の尊厳を取り戻そうとする「真剣勝負」に他ならなかった。

例えば、劇中にいわゆる「差別する人」が登場するのだが、それが悪者どころか、むしろ「あなた美人ですね」なんて言う紳士として描かれているのが「本物」らしい。他にも、選手二人が実は「男対女」よりも、自分らしく生きたいというシンプルな願いを動機としていたりと、問題の「根深さ」をよく描いている。

では、そういう「根深さ」にどう立ち向かうのか。本作は、そういう根深い問題の前では、人の生が「男対女」という分かりやすいお題目に吸収されてしまうという悲しさと共に、そういう一歩一歩から何かを確実に変えようという強い意志を描いている。ただ、少し分かりやすすぎる気もしたし、「それでも生きていくぜ」感は『アイ、トーニャ〜』の方が好みだった。
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