hajime363

ハウス・ジャック・ビルトのhajime363のレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
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※トリアー監督が大好きな人の感想です。

「人は誰でもシリアルキラーになれる。もしこの映画にメッセージがあるとすれば、そういうことになるだろうな。」
とりあえず、監督がこう言ってるので↑ありきで今時点の解釈をメモしておきます。どうせ何回も観ます。

◆お話・構成
殺人(死体)に美を見出した建築技師の12年間に渡る殺人の記憶を本人による独白という形で振り返る。
(厳密には謎の老人との対話だが、ほぼモノローグ)
大きく分けて5つの出来事+エピローグという形で構成される。
「ニンフォマニアック」にも近い見せ方。監督の中にある確固たる主張とそこに至る過程、想定しうる反論を対話という形で丁寧に伝える。
悪く言うと説明的だけど、テーマとか主張を言葉にすることで別の部分(画面、音楽とか)で物凄い遊べる。好きなモノ詰め込みました!みたいな
だからこそ理屈抜きに美しく、バカみたいに格好良いシーンがいくつもあった。

◆第一の出来事
死体に美を見出すキッカケ。
ユマ・サーマンが異次元のウザさを発揮。
まぁ、壊れた顔面が美しいって思っちゃったら仕方ないよね!

◆第二の出来事
殺人を介した美の追求。試行錯誤。
このシーケンスでは“偶発的な証拠隠滅”を神の祝福と解釈し行動が大胆になっていく過程が描かれる

◆第三の出来事
殺人慣れした主人公が具体的なテーマ性(自己表現)を持って事に及び始める。
彼なりの“家族像”がめちゃめちゃ恐ろしいのだけど、出来上がった作品は正直美しい…(この辺の説得力がすごい)
サイコじゃなくても美しいと思えるような“死体”を提示した上で、美におけるモチーフとアイコンの話へ。
ぶどう酒における糖度を高める3種類の方法を例に出しつつ、人間の持つ暴力性に美を見出すことの普遍性を語る。
それは貴腐ワインにおける腐敗とホロコーストに代表されるような“ある種の腐敗”そこに魅力を感じるのは必然だと。
100%同意は出来ないけれど、そういった忌むべき行為がアイコンとして魅力的な作品へと昇華されているのは事実だし、過剰に否定する人は個人的に苦手。
ということで、このシーケンスが一番好きでした。(貴腐ワインって美味しいよね)

◆第四の出来事
美には愛が含まれてなければならない、という反論に対する応答。
結論、外見的特徴への愛着でしかない、という風に見受けられたのですが、どうなんでしょう…?
愛の解釈についてはそんなにピンと来なかったかも…

◆第五の出来事
暴力性の暴走。目的と手段を履き違えるやつ。あるある。
手段の価値(新規性、難易度)に重きを置くあまり作品が完成しないという…
ネタバレになるので多くは語りませんが、第3者の視点が大事。

◆エピローグ
トリアー監督の茶目っ気、だと僕は勝手に解釈しています。
散々、真面目なこと言っておいて最後まで真面目だと恥ずかしいじゃん笑
構造は落語に近いと思っていて“オチ”を付けることで「…というお話でした。おしまい。」
みたいな照れ隠しってことだと思うんです。「ニンフォマニアック」のラストと同じです。
※この辺も個人的にとても好きです。
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