MasaichiYaguchi

ビブリア古書堂の事件手帖のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ビブリア古書堂の事件手帖(2018年製作の映画)
3.6
原作の三上延さんのライトミステリー小説は、既に漫画化されたり、剛力彩芽さん主演でテレビドラマ化されているが、黒木華さんと野村周平さんのW主演で実写映画化されて「灯下親しむ候」に公開された本作は、「本の虫(ビブリオマニア)」の人々を刺激して止まないような気がする。
舞台となっている「ビブリア古書堂」のある鎌倉は山と海に囲まれ、豊かな自然と歴史的遺産があるので、川端康成、大佛次郎、有島武郎、里見弴、小林秀雄、吉屋信子、久米正雄をはじめ優に300人を超える文学者とゆかりがある。
本作で取り上げられた夏目漱石も鎌倉に滞在していて、その体験を「門」に書いている。
原作の第一話と第四話を取り上げた本作に登場するのは夏目漱石の「それから」と太宰治の「晩年」なのだが、二作品共に〝キー〟となって物語と密接に関わっていく。
作者も作品としての〝テイスト〟も違う「それから」と「晩年」だが、この作品では、ある登場人物と浅からぬ関係性が過去と現在を行き来する展開の中で紐解かれていく。
現在のパートを栞子役の黒木華さんと大輔役の野村周平さんが担い、過去のパートを絹子役の夏帆さんと嘉雄役の東出昌大さんが担っているのだが、この二つの時代の対比が映画に奥行きを与えている。
特にセピアがかったトーンで描かれる過去は、切なさとノスタルジーに溢れていて心の琴線に触れる。
ラストの方は原作と違うが、映画は愛の残り香を感じさせるような結末にしたかったのかもしれない。