えみ

Ryuichi Sakamoto: CODAのえみのレビュー・感想・評価

Ryuichi Sakamoto: CODA(2017年製作の映画)
4.9
坂本龍一を称え尽くせる言葉が思いつかない。
彼の音楽に惚れ、人間性に惚れ、生き様に惚れ、憧れてやまない。静かな小さい映画館で、彼と同じ空間にいるかのような、同じ世界を見ているかのような錯覚に陥られる至高の映画。いつまでも浸っていたかった。

CODA…「これは最終楽章のはじまりなのか」

過去に癌も患い65歳になった彼のドキュメンタリーにこんなキャッチフレーズ見ただけで泣きそうになってたけど、AERAのインタビューで、まだまだ終わらせる気なんてないって言ってくれててほんと安心した。彼がいなくなってしまったら、人類にはどれだけの穴が空くのだろうって、想像しただけで悲しくて恐ろしい。

まだ期間は短いながらも一ファンとして、彼のすごさはよくわかってるつもりだったけど、その認識の何百倍も偉大な人だってこの映画で思い知らされた。

音楽家としての天井なしの才能、見返りを求めず人類、自然、次世代のために行動し続ける姿勢…どれをとっても、同じ人間とは思えない。彼から見えている世界の広さは想像もつかない。
65年という彼の人生を辿ると、戦メリ、ラストエンペラー、YMO時代の活躍や、それを取り巻く社会状況が見えてくる。
そういった意味で時空を超えた作品だった。
芸術家っていうのは、社会に潜む不調和、歪に敏感らしい。炭鉱のカナリアみたいなものだって。911の際にNYにいた彼が、音楽は平和じゃないとできないってことを痛感したって話と繋がる。
彼が際限無しの才能を用いて世界のためにしてきたことの1割でも、何の才能もない私は、世界に貢献できるだろうか。一生かけても1割にも及ばないかもしれない。それでも少しでもその生き様に近づきたい。

坂本龍一は人類、世界の宝だと思う。音楽の神様だと思う。坂本龍一は本当に美しい。
なぜ日本でこれほど彼の偉業の数々が知られていないのか。不思議でしょうがない。

非同期の音楽、自然を型にはめ込もうとする人類への抵抗、自然への調和が彼の今の作品たち。彼の生き方の真髄そのものなのかもしれない。

そして彼の不思議なところは、これほど類まれなる人類史上に残る才能を持っていながらにして、世俗的な感覚も持ち合わせていること。彼の普通の人間らしいところもたくさんこの作品で見れる。闘病後、8時間しか作業できなくて限界を感じる…なんて、、才能だけじゃなくて努力もしまくってきた人なんだなって、あの壮大な音楽制作には彼の孤独で地道な努力が詰まってたんだって初めて知った。

そして彼のインタビュー時の表情の柔らかさ、良い音に出会った瞬間の顔のほころび、バランスボールに座って作業してるとことか、若い頃の尖りまくってる感じとか、今も尚残る若い頃の鋭い面影が、制作中の彼には宿るところとか、白髪の美しさとか…龍一ファンには堪らないシーンも溢れてる。

全然ファンじゃなかった友達と行ったけど、すごく良かったと言ってた!魅了されたみたい。これを咀嚼できる文化のレベルに日本が至ってほしいものだ。
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