サマセット7

アトミック・ブロンドのサマセット7のレビュー・感想・評価

アトミック・ブロンド(2017年製作の映画)
3.7
監督は「デッドプール2」「ワイルド・スピード・スーパーコンボ」のデヴィッド・リーチ。
主演は「モンスター」「マッドマックス/怒りのデスロード」のシャーリーズ・セロン。
原作はグラフィック・ノベル「The Coldest City」。

1989年、「ベルリンの壁」崩壊が迫るベルリン。
英国諜報部MI6のスパイが殺され、東西ベルリンに潜むスパイのリストを東側のスパイに奪われた。
リストの奪還と、もう一つの密命と共に、MI6の腕利きスパイ、ロレーン・ブロートン(シャーリーズ・セロン)がベルリンに潜入する…。
全てが終わった後、MI6の用意した一室にて、ロレーンは上司に報告する。崩壊前後のベルリンの壁の東西で、スパイ同士がいかなる暗闘を繰り広げたのか…。

10年代随一の大傑作「マッドマックス/怒りのデスロード」のフュリオサ大隊長役で、アクション・ヒロインとして鮮烈な印象を残したシャーリーズ・セロン。
今作は、シャーリーズ・セロンのアクション女優としての魅力を最大限に発揮せんと試みた、スパイ・アクション作品である。

批評的な評価は、まずまず高め。一般的には好みの分かれる作品、と言う感じか。
製作者の期待ほどではないが、そこそこの興行成績を上げた。

ジャンルとしては、スパイ・諜報ものと、本格アクションのミックス。
冷戦末期の、最後のスパイたちの暗闘を描く。

今作の最大の見どころは、シャーリーズ・セロンである。

シャーリーズ・セロンが、ロングコートを着て、歩く。立つ。座る。タバコを吸う。
その姿の、カッコ良さたるや!

そして、間違いなく今作を歴史的なものにしているのは、シャーリーズ・セロン自身による格闘、ガンアクション、スタントなどの、本格的アクションの連打にある。
女性が、屈強な男たちを現実的な手段で無力化するために、如何にして闘うか。
シャーリーズ・セロンとスタントマン出身のデビッド・リーチ監督のコンビは、そのリアルな描写に成功している。
股間、こめかみ、膝関節といった急所を、容赦なく突く。
関節を利用して投げる。
武器になりそうなものが周囲にあれば、躊躇なく、使用して、急所にぶち込む。何度も、刺し、殴る。
もちろん、銃があれば、つべこべ言わずに撃つ。
物凄いシーンが何度も出て来る。
車内のハイヒールを使った格闘!
ホースを使った対集団戦!!
最大の白眉は、誰もが指摘するであろう、中盤の建物内エレベーターから始まる、長尺の擬似的な長回しワンカットのアクション!!!
このシーンのシャーリーズ・セロンのアクションが史上屈指のレベルで凄まじい点は、異論なかろう。
女性の格闘アクションの歴史は、確実に今作で更新された。

シャーリーズ・セロンは、南アフリカ出身。
父親の家庭内暴力と母親の正当防衛という凄まじい経緯で渡米、銀行での担当者との口論の激しさを見込まれてスカウトされた、というエピソードは有名だ。
その美しさと同居する、猛々しさと凄み。
オンリー・ワンの女優と言えるだろう。

今作は80年代音楽の使用や、スタイリッシュな色彩使いなども魅力だ。
音楽などは、かなりこだわって選曲しているそうなので、興味があれば各曲の歌詞や背景を調べるのも面白かろう。

スパイものらしい、裏切りと騙し合いが横行し、誰が味方か分からず、各人の行動原理が読めないもつれたストーリーは、今作に関しては、評価が分かれるかも知れない。
個人的には、本来こういうドヤッとした話は好物なのだが、シャーリーズ・セロンの御姿とアクションが凄すぎて、正直、途中からストーリーがどうでも良くなってきた感は否めない。
と言いつつ、切れ味鋭いラストシーンにはまんまと満足させられているのだから、何をか言わんやであるが。

今作のテーマは、使い古されたスパイ・ムービーに、10年代ならではの新たな風を吹き込む!ということかと思う。
女性によるリアリティあるアクションや、音楽使い、同性愛描写や全編にわたる演出のスタイリッシュさに意気込みがうかがえる。
もちろん、真に受け取るべきテーマは、シャーリーズ・セロン、カッコ良すぎぃぃぃ!!!!!と泣いてひれ伏すことである。

女性アクションの新たな地平を切り拓いた、唯一無二の女優による意欲作。
ところで、シャーリーズ・セロンの当たり役、フュリオサ大隊長が主役のスピンオフの企画が動いているらしい。
フュリオサを演じるのはシャーリーズ・セロンではないようだが、果たしてどうなることか。