『ブーベの恋人』(La ragazza di Bube)1960イタリア・フランス
1921年 社会党から分裂してイタリア共産党結党
1922年 ムッソリーニが政権をとり共産党を非合法化。党員は地下活動に入る
1940年 前年にポーランドに侵攻したナチスに続いてイタリア王国も世界大戦に参戦。
1943年7月 連合軍がシチリアに上陸。イタリア国王エマヌエーレ3世がムッソリーニを逮捕。イタリア王国は連合軍と講和。
1945年5月 共産党シンパのイタリアパルチザンは連合軍と共にナチスと戦いナチスは降伏する。
そしてこの映画の時代設定は1944年7月。
田舎の娘マーラが出会った兄の戦友ブーべは、イタリア共産党員の元パルチザン。第二次世界大戦当時はムッソリーニに抵抗してファシストと戦っていた。
映画の中程でマーラとブーべが乗合バスに乗ったら見知らぬ母親がバスに乗っている司祭を罵り出す場面がある。「ファシストの味方をして!私の息子も娘もお前のために殺された!」と司祭をなじる。
ローマ・カトリック教会は唯物論(無神論)を主張するマルクスの共産主義、共産党を恐れてムッソリーニのファシスト党と手を結んだ。敵の敵は味方と判断した。
ブーべは敵対する立場の司祭を群衆から救い出す。ブーべはガチガチの共産主義者ではない、ごく普通の若者だ。
ブーべは共産主義者を目の敵にする準尉から絡まれて自分の身を守る為に射殺する。
憲兵隊から追われる身になったブーべはマーラと田舎に逃れる。束の間の安らぎ。しかしその平穏は長続きせずブーべはマーラを置いて国外へ逃亡する。
残されたマーラは街へ出て印刷工場で働く。友人が大きなおせっかいでダブルデートをしくみ工場の同僚ステファーノという青年と付き合い始める。
ブーべからは連絡がなくステファーノは優しい。次第にステファーノに好意を持つマーラ。
マーラとステファーノは映画館でヴィヴィアン・リーとロバート・テイラーの『哀愁』を観る。菊田一夫の『君の名は』の元になったすれ違いメロドラマだ。メロドラマ映画の中で悲恋のメロドラマを観る二人。
そこに父からの知らせ。ブーべが逮捕されたのだ。裁判が始まり数年ぶりに再会した二人。
ブーべとステファーノの間で揺れるマーラの心。
この時代、国民投票で王制から共和制に変わりイタリア共産党は政府の一角を占めた。パルチザンの働きでムッソリーニが倒されたからだ。
共産党員であることは非合法どころか誇りに思ってもいいくらいなのだが殺人犯は例外。
マーラは裁判の証言に立ちブーべが司祭を救ったと訴える。ブーべの判決は終身刑か、それとも恩赦か?
ラストのマーラの選択に心を打たれた。
『ブーべの恋人』は主題歌がヒットしたことは知っていたし名前は有名だがメロドラマなのだろうと思っていた。確かにメロドラマなのだが慌ただしく変化していく戦後を時代背景にしたなかなか立派な映画でしたよ。
そしてクラウディア・カルディナーレの凛とした美しさが心に残る。