stanleyk2001

Saltburnのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

Saltburn(2023年製作の映画)
3.5
『ソルトバーン』
saltburn
2023
AmazonMGM

「フェリックスがあなたを気に入ったのがなんとなく分かる」
「なぜ?」
「リアルだから。去年の子より」

「パメラが自殺したって?」
「彼女は人の注目を引くためならなんだってするのよ」

「昔、私ちょっとの間レズビアンだったのよ。でもウェット過ぎるのよね。男性の方が素敵だしカラッとしてる」

「父はあなたをスパイダーマンと呼び始めた。常にコソコソ動き回り蜘蛛の巣を張り巡らしているから。『オリヴァーの巣』を。私はクモだと思わない。むしろ蛾だと思ってる。静かで、無害、光るものに吸い寄せられる。窓に張りつき羽をばたつかせて必死で中に入ろうとしているの。そして成功した。そして中から侵食する」

イギリス地方都市の中産階級の両親から生まれたオリヴァー・クイック(バリー・コーガン)は特待生としてオックスフォードに入学する。

新歓パーティーで数学オタクの新入生から話しかけられる。
「知り合いがいないのは君と僕だけだ」
入学したばかりだというのに周りのみんなはお互いに顔見知りだ。みんな貴族階級だからだ。

オリヴァーは貴族の子弟で背が高くルックスが良いフェリックス・キャットン(ジェイコブ・エロルディ)と知り合い夏休みを彼の自宅である壮麗なカントリーハウス(地方荘園)ソルトバーン邸で過ごすことになる。


登場人物は
・礼儀正しいカントリージェントルマンの父サー・ジェームズ(リチャード・E・グラント)
・「失礼」という観念がない母親エルズペス(ロザムンド・パイク)
・フェリックスの姉で性的に放縦なベネシア(アリソン・オリバー)
・フェリックスの従兄弟でオックスフォードの同級生ちょいワルのファーリー(アーチー・アデクェ)
・母の知人で自己憐憫的なパメラ(キャリー・マリガン@『プロミシング・ヤング・ウーマン』)
・威圧的な執事ダンカン(ポール・リス)

パメラと主人公オリヴァーはソルトバーン邸の滞在客。ジェーン・オースティンやアガサ・クリスティの小説にはこういう滞在客というのが出てくる。

親戚の屋敷に娘や息子を長期に滞在させる。屋敷を訪ねて来た家族の知人は客としてもてなすのがイギリスの礼儀。(出ていって欲しい時はやんわり追い出す)

主役のバリー・コーガンは不思議な容貌の俳優だ。青い目だけど東洋人みたいな顔立ち。長谷川朝晴さんに似ている。

監督エメラルド・フェネルは貴族の子弟フェリックスを演ずることになったオーストラリア出身のジェイコブ・エロルディに「参考にして」とイーヴリン・ウォーの『ブライズヘッドふたたび』を渡したらしい。

『ブライズヘッドふたたび』は貴族の屋敷で過ごした日々を回想する物語。

監督は否定的だけど『ソルトバーン』のプロットは『ブライズヘッドふたたび』よりもパトリシア・ハイスミスの『才能あふれるリプリー氏』によく似ている。『リプリー』はアラン・ドロン版『太陽がいっぱい』、マット・デイモン版『リプリー』、そして今年はアンドリュー・スコット版『リプリー』も製作された。

『リプリー』は悪知恵が働く貧しい青年が金持ちの息子に憧れて愛して憎んで殺して息子になりすます話。

『ソルトバーン』は中流階級の大学生が貴族の子弟に憧れて愛して憎んで屋敷に取り入って屋敷を手に入れる話。

『リプリー』はアラン・ドロン版では婉曲に描かれていた同性愛がマット・デイモン版ではよりはっきり描写されている。

『ソルトバーン』ではさらにはっきりと主人公オリヴァーは貴族フェリックスを愛して憧れている。その愛し方は表に出さない秘めたやり方。間接キスならぬ間接XXXXの場面ははっきり言って気持ち悪い。えーそれは衛生的にいかがなものかという気持ち悪さ。

英国の貴族の邸宅を舞台にした『太陽がいっぱい』だが印象はじっとりとしている。

監督のフェネルとロザムンド・パイクは二人ともオックスフォードの英文学専攻。よく知ってる鼻持ちならないスノッブな貴族階級を赤裸々に描いた。

監督の前作『プロミシング・ヤング・ウーマン』と同じく観た後は強烈な感情に襲われるのだが、観客をエンパワーメントしてくれはしない。

表面を上品に取り繕うが実は陰湿な世界を描いた英文学の伝統を継承している。
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