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美貌に罪ありのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

美貌に罪あり(1959年製作の映画)
4.0
『美貌に罪あり』
1959(昭和34年)
大映

原作・川口松太郎
脚本・田中澄江

「温室を作って蘭で儲けるというから土地を担保に200万お貸ししたんですよ。ところがちっとも儲からないじゃありませんか。大体、蘭なんて金持ちの道楽仕事だよ」
「ねえ奥さん。この際思い切って土地を手放したらどうですか?こんな土地、周りに住宅や工場ができてごらんなさい。日当たり、水はけ、風通し、みんな悪くなって何にも出来なくなっちゃいますよ。農業なんて時代遅れ。これからは工業と商業ですよ日本は」
「でもご先祖様からの土地屋敷ですからね。そう簡単には」

「なかなか親切ね彼氏」
「幼馴染なんです。小さい時から一緒に育った」
「ああいう素朴な青年って良いものよ」
「そうかしら。あたしは飽き飽きしてるの。とっても単純で自分にプラスするものなんて何にもないみたい」
「私も7年前はそう思ったわ。そう思って色んな人と遊んだわ。でも結局お化粧と歩き方と英語が上手くなっただけ。お金も残らず小じわが増えて来年は30。スチュワーデスの定年よ」
「一番若い時に一番華やかなコースを辿るって素敵じゃない?あたし思い切り楽しんでみたいわ」
「後悔するわよ」

「この家はご先祖が建ててから150年になります。吉野家代々の人間が生まれ育ち死んでいった美しい屋敷です。この屋敷を守るのがわたくしの一生の念願でしたけどやっぱり女手一人では無理でした。菊江と周作さん、敬子と忠夫、それぞれ結婚して家を継いでくれたらと思ったんですがみんな家を飛び出してしまいました。もう家や土地に愛着を持つ時代じゃないんでしょう。あたし一人どんなに頑張ってもどうなるもんじゃありません。諦めました。でも売ってしまったらかえってサバサバしましてね。どうせわたくしはこの家と滅んでいく人間ですから。売ったお金は娘たちと分けて仲良く暮らしていってもらいたいと思います。ひと月もすればこの家も壊されて薪の山になりその庭には鉄筋のアパートが立つことでしょう」

大東亜戦争が日本の敗北に終わり連合国総司令部(GHQ)はさまざまな改革を行なった。その一つが「農地改革」。地主から土地を強制収容して小作農に分け与えた。

地主は没落する。小作農が土地を住宅公団に売り飛ばす。日本の産業構造が農業から商業工業に変わっていく時代背景がこの映画でよくわかる。

東京近郊の吉野家は夫を亡くした吉野ふさ(杉村春子)が長女菊江(山本富士子)、次女敬子(若尾文子)、使用人の清水忠夫(川口浩)、その妹で聾唖のかおる(野添ひとみ)。元小作農の息子谷村周作(川崎敬三)と花の栽培を行っている。

元小作農の周作の父から借金して温室を立てて花の栽培を行っているがなかなか儲からない。

長女山本富士子は日本舞踊に打ち込み師匠藤川勘蔵(勝新太郎)と結婚して舞踊の道で暮らしを立てようとする。

次女若尾文子はスチュワーデスになって華やかな都会暮らしを始める。

三組の男女の恋愛模様を描いたよく出来たメロドラマだけど没落した地主が土地を手放すまでの物語でもある。

チェーホフの『桜の園』を連想した。

とうとう家を手放すことを決めた母(杉村春子)が長女(山本富士子)と盆踊りを踊るその踊りの見事さ。地主の奥さまはかつて踊りの名手だったのだ。二人の女優の息のあった舞は見事だ。

三輪トラックに乗り家を後にする杉村春子の表情。この映画の真の主役は彼女だったのだ。

・勝新太郎が恩義ある料亭の女将と決裂する場面。二人の顔は画面の右と左を向いてる(そっぽを向いてる)。カットが切り替わると反対側からとってやはりそっぽを向いてる。なかなか新鮮な構図とカット割り。増村保造の工夫が光る。

興行を考えると興味を惹きつけるタイトルにしなくてはいけなかったのだろうが『美貌に罪あり』はひどいな。
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