Junsss

ヘルタースケルターのJunsssのネタバレレビュー・内容・結末

ヘルタースケルター(2012年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

<キャスト>

・りりこ〔比留駒春子〕(沢尻エリカ)
なりたい顔No.1と評される売れっ子芸能人。実は全身整形している。
・麻田誠(大森南朋)
検事。りりこが通っている整形クリニックの不正をあばこうとする。
・羽田美知子(寺島しのぶ)
りりこのマネージャー。
・奥村伸一(綾野剛)
羽田の彼氏。
・吉川こずえ(水原希子)
りりこと同じ事務所に入ってきた新人モデル。
・沢鍋錦二(新井浩文)
りりこのメイク担当。


<あらすじ>

-起-

日本の巷では、ネイルやマスカラが流行。プリクラ写真でも、目を大きくしたり整形みたいに顔を加工したりできるようになっている。
プリクラやネイル、マスカラなどのおしゃれに敏感な女子高校生たちがなりたい顔NO.1は、芸能人の「りりこ」だった。
りりこは今売れに売れている若い芸能人女性で、ファッション雑誌の表紙を飾り、CMやドラマ出演が殺到している。
そんなりりこは「私の中で音がする。カチコチ、カチコチ、音がする。早くしろよと音がする」と感じていた。それは、りりこの中で何かが終わる音…いわば「若さ&美しさが失われ、皆から見放されるまでのカウントダウンの音」だった。
りりこは美しさとスタイルのよさを売りにしている。誰もが認める絶世の美女だ。
ただしそれは「全身整形によって得られた」ものだった。りりこは目(眼球)、耳、爪、性器以外はすべて「つくりもの」だったのだ。
それに気づく者は殆どいなかった。
検事の麻田は、脱税、政治家への贈収賄、堕胎した胎児の死体臓器売買および薬事法違反容疑で『麻布プラチナクリニック』に目をつけており、なんとか起訴できないかと調査している。ところが顧客の大半が政治家や富裕層の御曹司や御令嬢になるため、もみ消されてしまう。
りりこを見た麻田は全身整形に気づき「興味深い顔だ。崩れている」と言った。顔の骨格に乗っている筋肉の動きが、表情とまるで合っていないことで、麻田はりりこの整形に気づいたのだ。
麻田はどこかの時点で接触をし、りりこに証言台に立ってもらおうと考える。しかしりりこという「切り札」は1回しか使えないのは分かっているので、最も効果的な時を狙う。人気絶頂機の現在は、まだ時期尚早だった。
りりこはその人気で、手に入れられるものは手に入れている。
「ダーリン」と呼ぶ恋人は御曹司の若い男・南部貴男で、りりこにぞっこん。
35歳の付き人・羽田美知子はりりこの言うなりだ。但しこれは複雑な関係で、りりこは意地の悪い命令をして羽田を困らせた後は、「私、羽田ちゃんがいないとやっていけない」とすがるように言う。
美しくて絶対的な存在が自分を頼りにしてくれている…そう思うと羽田はりりこを突き放すことができない。次第に羽田はりりこの言うことは絶対に従うようになった。
人気絶頂を迎えたりりこだったが、整形で得た美しさを保つには、いつまでも整形に頼らねばならない。
帰宅して自室で自分の姿を鏡に映してうっとりしていたりりこは、前髪をかきあげた際におでこに黒い痣ができていることに気づく。整形の後遺症だ。

-承-

りりこの所属するタレント事務所の社長であり、りりこが「ママ」と呼ぶ多田寛子は、りりこのメイク担当をするオカマの男性・沢鍋錦二に口止め料として8カラットのルビーを渡した後、りりこが全身整形していることを告げて、フォローするよう命じる。沢鍋はそれまで全く知らなかったので驚きますが、以後りりこの身を案じる。
メイクで隠してその日の撮影を終えたりりこは、麻布プラチナクリニックで再手術の予定を入れた。売れっ子のりりこはスケジュールが詰まっているが、それ以上に「りりこの美しさをキープする作業」は大事なので、スケジュールを外して手術に充てる。
クリニックの患者には一般の顧客もいるが、キープし続ける治療費を払いきれずに整形が崩れ、それを苦にして自殺する女性も出ていた。
女医の和智久子は「綺麗にしてあげたら、定期的なメンテは必要になるのは当たり前。その分の費用は働けばいいではないか」と言ってのける。
胎児の胎盤から得たプラセンタ、いわば他人のものを美容のために混ぜているため、クリニックで整形をすると一生免疫抑制剤を服用せねばならない。それも高額だ。
再手術をして美しさを取り戻したりりこだったが、その頃から「美しさはいつか失われる」ことを自覚していた。
自分の付き人の羽田が35歳ですっぴんなのを見て、口紅をあげる。渡しながらも「気をつけな。ドラッグみたいなもので、こんなのやればやるほど、もっとやりたくなるのよ」と言う。確かに化粧もし始めれば止まらなくなるので、りりこの言っていることは正鵠を射ていた。
メイクを落としたりりこは、目の横と額に黒い痣が広がっているのを見て笑う。その頃には、いつまで整形してもきりがないことや、孤独、空しさ、せっかく美しくなっても芸能界ではすぐ忘れられてしまう無力感で、りりこの心は限界だった。
りりこは羽田に「羽田ちゃん、私、綺麗かなあ」と聞いた後、股間を舐めるよう命令します。羽田はその気迫に押されて、従った。
ママこと寛子の元にりりこの妹・比留駒千加子が訪ねてくる。寛子は食事をして追い返すが、後日千加子はりりこに手紙を送り、りりこは千加子に会いに行った。
「強いから、お姉ちゃんは綺麗になったんだよ」と言う千加子に対し、りりこは「綺麗になれば、強くなれる」と答える。
りりこは美しさを保つために何度も手術をせねばならず、痛く苦しい思いをした。それでもりりこはトップとして君臨するべく我慢する。
そんなりりこの様子を見て、検事の麻田は「ヘルタースケルター(しっちゃかめっちゃか)だ」と言った。

-転-

同じ事務所の18歳の女性アイドル・吉川こずえが人気急上昇し、りりこは共に仕事をするようになる。
こずえは元々美しい女性。整形せずにモデルの仕事をしていることがりりこには妬ましく、憎悪を抱く。
なぜよりによって人気が出たのが同じ所属事務所のこずえなのか、なぜ整形した自分が整形していない奴に負けねばならないのか…追いつめられたりりこは、違法薬物に走った。
精神的に追いつめられたりりこは、次第に意識が混濁していく。
芸能界の仕事などもう辞めたいと思いつつ、でも美しさを保つには美容整形を続けねばならず、その資金を稼がねばならない。
りりこの恋人・南部が政治家の令嬢と電撃婚約したと、りりこは週刊誌で知る。
電話して事の真相を聞くと、真実だった。南部は「立場ってものがある。結婚は形だけ」と言うが、りりこは令嬢よりも自分の方が格下に扱われたことが許せない。憎悪の対象は令嬢に向かった。
その頃からりりこは羽田をいたぶることで、憂さを晴らすようになる。羽田と同棲する若い恋人・奥村伸一の存在を知ったりりこは、羽田のいる前で奥村と身体を重ねるのを見せた。「見てよ羽田ちゃん、あたし今からあんたの彼氏とすっごい、やらしいことするから」と言われた羽田は2人から目を離せず、以降は羽田と奥村の2人ともが、りりこの奴隷のような扱いを受ける。
羽田と奥村は南部の婚約者の令嬢を襲って、顔に硫酸をかけた。
麻布プラチナクリニックの患者の自殺が相次ぎ、麻田は今こそ動くべきだと考えてりりこに会う。
りりこサイドでも限界に近付いていた。整形を重ねても痕が消えなくなり、事務所の社長・寛子は「りりこはもうおしまいかな」と呟く。
水族館でロケをするりりこに、南部は会いに行った。りりこを「タイガー・リリー」と呼んだ南部は美容クリニックの不法行為を訴え、法廷で証言をしてもらいたいとダイレクトに言う。
「分かるよ、君のことは。皆を楽しませるために、必死で羽を散らしている。こんな出会い方しかできなかったことを、哀しく思うよ」と言った南部は、資料を渡して立ち去った。りりこは静かに動揺する。
帰宅して資料を開けたりりこは、今度は激しく動揺した。クスリを打ち「どっぷり堕ちてるわ」と言ったりりこは、翌朝、アイスのCMがこずえに奪われているのを見て、羽田に「この子をめちゃくちゃにして」と頼む。
花やしきで写真撮影をするこずえの休憩中を狙い、羽田はカッターナイフで襲おうとするが「いいよ、やれば」と言われて戸惑え。
こずえは芸能界の入れ代わりの早さをよく理解していた。

-結-

「みんなすぐ忘れる。私たちはどうせただの欲望処理装置。可愛い、すごい、ああなりたい。無責任な欲望だけが、名前と顔だけが、ただすりかわっていくだけの存在」と自覚して肝を据えているこずえを前に、羽田はナイフを振りおろせなかった。
番組収録中に幻覚が見え始めたりりこは、放送中に奇怪な行動を取った挙句、白目を剥いて倒れる。社長の寛子に休養を取れと言われたりりこは「忘れられるのって死ぬのと同じ。あんたたちに分かってたまるか!」と羽田に叫んだ。
追いつめられ自滅していくりりこを救おうと思った羽田は、部屋で見つけたクリニックの不法行為の資料を大量にコピーして、マスコミ関連に送る。
休養していたりりこの元に、マスコミの取材が殺到しました。麻布プラチナクリニックの件が表沙汰になり、騒動が起きていた。
検事の麻田はデータ洩れを責められるが、それも計算のうちだったよう。
りりこは記者会見を開くことになり、社長の寛子から原稿通りにしゃべれと指示された。ぼろぼろになったりりこに、沢鍋は優しく接する。
りりこは「見たいものを見せてあげる」と決意し、何も言わずマスコミの前で自らの右目をナイフで刺した。
ナイフで刺した瞬間、マスコミのシャッターの音は一瞬止まりますが、再び激しく焚かれる。りりこは最後までエンタメ性を貫きとおした。
麻田は「そんなサービスしても意味がない。15分も経てば忘れられる。皆、自分のことで忙しい」と思うが、りりこは「だから私は私を決めて、私を殺すのだ」と考える。
世間は夢中になるのも早いですが、忘れるのも早いもの。りりこは「いなかった説」「CGだった説」「1回死んだのが出てきた説」がまことしやかに語られる。
またりりこの顔を携帯の待ちうけ画面にすると二重になるとか、りりこの写真を枕の下に入れて眠るとにきびが治るなどという都市伝説もできた。
世間の流行は早くも次のアイドルに移っていく。
麻布プラチナクリニックの公判は回を重ね、訴訟を起こした患者はのべ126名にのぼった。自殺者は9名、行方不明者の1名はりりこだ。
りりこは伝説となり、復刻版の写真集が発売される。りりこの妹・千加子は上京し、りりこにならって整形し始めていた。
こずえは一時のようなブームはないものの、安定した人気を保っており、海外で写真撮影をしていた。
写真集の打ち上げでやばいショーを見せる店に連れられたこずえは、店員の中にかつて自分を襲おうとしたりりこの付き人・羽田がいるのを見つける。店員には奥村の姿もあった。
羽田を追って裏へまわったこずえは、そこに片目に眼帯をしたりりこが見世物になりながらも、相変わらず君臨しているのを見た。
(りりこにとって不幸なのは「世間から忘れられること」なので、見世物になってもりりこは幸福。芸能界に戻るつもりはない、現状に満足している)


<感想>

「輝きたい」「綺麗になりたい」といった、女性誰しもが思い描く事を望む少女が周囲の大人たちに歯車を狂わされながらも、自分の居場所を求め奮闘しながら生きている様を描いた作品。
原作を読んだことはないけど、沢尻エリカはハマり役なんだろうなということはわかった。
蜷川実花なのでとにかく色彩がビビッド。りりこのエキセントリックな感じと上手く呼応している。
Junsss

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