tak

ヘルタースケルターのtakのレビュー・感想・評価

ヘルタースケルター(2012年製作の映画)
3.0
エリカ様と蜷川実花のコラボで完成した映画は、とびきり刺激的な極彩色のエンターテイメントだった。主人公は、芸能界で抜群の人気のリリコ。誰もが羨むその美貌。しかし、それは全身整形によるものだという秘密があった。美しさを維持する為に重ねられる再手術、薬剤投与。体に異常を感じ始めていた頃、同じ芸能事務所に天性の美しさを持つ新人がやってくる。リリコは次第に精神面でも追い詰められていく…というお話。

まるでナタリー・ポートマンの「ブラックスワン」を観ているようだ。鑑賞後にどーっと疲れるダメージ感も同じ。気晴らしに観る類の映画ではない。快楽を貪り、マネージャーをいたぶり、薬に頼る。常軌を逸して堕ちていく様は観ていて痛い程だ。このリリコというキャラクター、傲慢でありながら、醜い芸能界の被害者でもある。こんな役柄、沢尻エリカ以外の誰がキャスティング可能だろうか。あの「別に」発言以来定着してしまったパブリックイメージは、観る側は少なからず念頭にあるだろう。故にリリコの役柄をきっと抵抗なく受け入れられたはず。一方でボロボロになっていくリリコの姿を通じて、結局消耗品でしかない芸能人たちに思いを馳せる。実際、この撮影でエリカ様はキツイ役柄に精神的にもダメージがあったと聞く。確かにこんな映画史に残る強烈なキャラを毎日熱演する日々…いくら度胸のあるエリカ様だって重い仕事だったのは想像できる。

リリコ以外もいいキャスト。特に事務所社長を演ずる桃井かおりの存在感。作られた美のリリコと対局である生まれ持つ美の代表を演じた水原希子。しかし演技がすごくいいというより、この人の顔みたら納得できるというものかもしれない。ある意味、この映画は出演している役者たちのパブリックイメージに頼っているとも思えるのだ。

蜷川実花監督の前作「さくらん」は、実はかなりお気に入りだった。遊郭の中でないと美しさを維持できない遊女たちを金魚にみたてたイメージショット、絢爛豪華な衣装に神々しさすら感じられる女優陣の艶姿。本作のリリコも芸能界にいるからこそ、その美貌を保つことができる金魚のようだ。それぞれの場面は、静止画としても美しい。ファッションも含めて、この映画で感じるのは色彩。クライマックス、衝撃の記者会見場面にしても台詞は一切なしで、イメージショットの積み重ねという大胆さ。だから全体の話にきちんと収拾つけるのに、大森南朋が説明役として重要。彼の存在がなければ美とエロスの長編PVになっていたかもしれない。

この映画の教訓は、何事も執着しすぎるのはよくない、ということ。それは身を滅ぼす。後味はよくない映画だけど、すげぇもの観た…という達成感は十分にある。
tak

tak